
米国の環境法は,危険性があると思われる廃棄物の大気,水域への排出を規制するだけで,人々がそれらの汚染物質に実際に接触する量を規制してはいない。有毒物質が人体にまでたどり着いてはじめて健康被害が生じるという事実は無視し,暴露量のことは考えずに,排出量にのみ注目しているのである。
このような状況になっているのは,いったいなぜか。それは,国が規制している汚染物質に対して一般市民がどの程度実際に暴露されているかの情報が,長い間ほとんどなかったからである。規制を行う側は,ある汚染物質について,いったいどれだけの数の人がその影響を受け,その暴露量がどの程度で,問題となる発生源が何であるのかということについて,何も知っていなかったのである。その結果,役人たちはしばしば,重要だが目立たない発生源を見つけることができずに,自動車や工場のように一見して明らかな発生源からの汚染物質の発生量を規制することだけに専念してしまうのである。
幸いなことに,人々が有毒物質にどの程度さらされているのかを調べる科学も成熟してきた。科学者たちはこれまで,高感度分析装置と携帯用探知装置を開発してきた。研究者たちはこれらの装置を使っていろいろな場所で測定を行い,人々がどこでどのように危険性のある化学物質に暴露されるのかを測定できるように,工夫をしてきた。
その結果,野外よりも室内にいるときの方が,はるかに暴露量が多いことがわかった。(本文より)
著者
Wayne R. Ott / John W. Roberts
2人は,環境が及ぼす健康への脅威に関して長年研究を行っている。オットは環境保護局に30年間勤務し,大気汚染,毒性物質,人体への暴露に関する研究に従事してきた。現在はスタンフォード大学環境工学科の顧問教授をしている。ロバーツは,環境保護局が使用している“じゅうたんのほこりを採取するためのサンプル装置の開発”に協力した。1982年には,家庭内での危険な汚染物への暴露を評価,制御するための会社をシアトルにつくった。現在はシアトルで,住民が室内汚染物質にさらされる程度を減らす「家庭環境士計画」に従事している。
原題名
Everyday Exposure to Toxic Pollutants(SCIENTIFIC AMERICAN February 1998)