
米国技術査定局の調査をはじめとするいくつかの調査では,一般的に行われている現代の医療のうち,効果があると科学的に立証できるのは20%にすぎないという。残りについては,効果があるのかどうか,あるとしたらどのように効いているのか,実証的な調査はされていない。
では,これらの治療には何の益もないかというとそうではない。たいていは役に立っている。しかしなかには,プラセボ効果が働いている場合もあるかもしれない。つまり,治療を受けるという行為そのもの,たとえば,医療の専門家のところへ行くとか,薬を飲むなどが患者の回復を助けているだ。
1980年代初頭から,私はプラセボ効果について調査している。調査を進めるなかで,どのようにプラセボが効くのか,なぜ医者と患者の両方から蔑まれているのか,またどのような人がプラセボ効果が得やすいかなど,いくつかわかってきたことがある。以上の問題に関して集めた情報は完璧とは言えない。だが,これまでにわかったことから,プラセボ効果は治癒に大きな威力をもっており,その力を活用し,さらに高めるためにもっと努力されるべきだと確信している。(本文より)
著者
Walter A. Brown
1974年から,ブラウン大学医学校の精神科に所属。約10年前に,精神科薬剤の臨床試験をするため,ロードアイランドに研究センターを設立した。現在は,実験的に誘発された感情下での脳の機能と免疫機構について研究している。米国精神医学会(APA)の特別会員であり,米国神経精神薬理学大学のメンバーでもある。
原題名
The Placebo Effect(SCIENTIFIC AMERICAN January 1998)