
細胞はどんな構成原理に基づいて生物という形を作り出しているのか。細胞自体をつくる細胞小器官,細胞小器官を作るタンパク質分子,タンパク質分子を作る原子の場合はどうなのか。著者は,このような要素が自己組織化して1つ上の複雑な構造を作りだす“基本原理”を見つけたいと考えてきた。そして,さまざまなモデルと実験結果を通して,フラー・ドームで有名なバックミンスター・フラーが発見した「テンセグリティー」こそが,その本質ではないかと主張する。
テンセグリティー(tensegrity)という言葉はフラーが作ったもので,tensile(張力)とintegrity(完全無欠)の合成語である。テンセグリティー構造の特徴は,左の梶川泰司氏による作品が端的に物語っている。これは30本の丸棒を正二十面体の対称性に基づいて空間配列し,ちょうど一筆書きにように1本の細い糸で連続的につないだもので,それぞれの木どうしはまったく接触していない。ところが,糸(張力部材)が全体をバランスよく引っ張り,個々の木(圧縮部材)がその力を受けとめるようになっているため,全体は統合されてきわめて安定である。たとえばこの作品は,転がしたり,あるいはボールのようにバウンドさせることさえできる。(編集部)
著者
Donald E. Ingber
エール大学で,文学士,文学修士,哲学修士,医学博士,Ph.D.の学位を取得した。現在は,ハーバード大学医学部の病理学の准教授で,ボストンにある小児病院の外科・病理学の研究員である。またマサチューセッツ工科大学の生物工学センターの一員でもある。細胞構造についての仕事に加え,現在,臨床治験中の抗ガン剤の発見など腫瘍起因性脈管形成の研究に貢献している。イングバーはマサチューセッツ州ケンブリッジにあるMolecular Geodesics Inc.の創設者である。この会社は生物からヒントを得た性質をもつ先端素材を作り出している。 Geodesics Inc.の創設者である。この会社は生物からヒントを得た性質をもつ先端素材を作り出している。
原題名
The Architecture of Life(SCIENTIFIC AMERICAN January 1998)