日経サイエンス  1998年4月号

自然界を渡り歩く細菌のDNA

R. V. ミラー(オクラホマ州立大学)

 遺伝情報は普通,親から子へと“垂直に”伝わる。ところが細菌の場合は,細菌から細菌へ,ときには種を越えて,DNAが“水平に”移動する現象が見られる。たとえば,腸管出血性大腸菌O157がベロ毒素を産生するのは,他の細菌のベロ毒素の遺伝子がファージ(細菌に感染するウイルス)によって大腸菌のゲノムに組み込まれたためと考えられている。

 

 このような「自然界での遺伝子組み換え」は,かつてはごくまれな現象と考えられていたが,著者たちの研究によって,特定の条件下ではしばしば観察できることが明らかになってきた。近年,遺伝子組み換え技術によって作られた細菌が実用化されるようになり,この分野の研究に新たな関心が集まっている。

(編集部)

 

 

再録:別冊日経サイエンス221「微生物の脅威」

著者

Robert V. Miller

イリノイ大学でPh. D.を取得。1991年よりオクラホマ州立大学の教授で,微生物学および分子遺伝学教室の主任を務めている。1974年にテネシー大学ノックスビル校で助教授となり,1980年にはシカゴにあるロヨラ大学医学部に移った。1987年から1993年までは,米国の環境保護局のバイオテクノロジーに関する諮問委員会のメンバーとして,自然環境への遺伝子組み換え微生物の導入に関する環境保護局の政策の立案にたずさわった。

原題名

Bacterial Gene Swapping in Nature(SCIENTIFIC AMERICAN January 1998)