
スペースシャトルとランドサット衛星がとらえたアラビア半島のルブ・アル・ハリ砂漠の画像の中に,古代の道と考えられる何本かの細い筋が見つかった。それらの筋は砂丘の中の1点に向かって集まっていた。これを手掛かりに1990年と1991年,伝説のオアシス都市「ウバール」の探索が行われ,発掘によって城壁都市の遺構が姿を現し始めた。これは衛星からのリモートセンシングによる画期的な考古学の発見だった。
リモートセンシング装置はハンマーやスコップなどと同様,考古学者の標準装備になろうとしている。人工衛星による遺跡探査は最も大掛かりなリモートセンシングの考古学への応用だが,これと反対に,最もミニサイズの応用は,地下を探る各種の携帯センサー。地中の電気抵抗や磁場を観測したり,地中レーダーを使って地下の構造を探る。シカゴのフィールド博物館のルーズベルトは,こうした装置を使って有史以前のアマゾン川流域の人々の集落と生活様式に関する重要な発見を成し遂げた。古代エジプトのクフ王の大ピラミッドの脇にうめられた第2の「太陽の船」もリモートセンシング技術によって発掘することなくその調査が実施された。
来世紀になれば,リモートセンシング技術の考古学への応用はますます発展し,発掘しなくても遺跡の状況が手に取るようにわかる「仮想現実考古学」が実現するだろう。(本文より)
著者
Farouk El-Baz
ボストン大学リモートセンシングセンター所長。カイロのアイン・シャムス大学を卒業,ミズーリ大学でPh.D.(地質学専攻)取得。エジプトのアシュート大学とドイツのハイデルベルグ大学で教鞭を取った後,ベルコム社を経てスミソニアン航空宇宙博物館に移り,地球惑星研究センターを設立,所長となる。さらにその後,アイテック光学システム社を経て現在に至る。専門は衛星画像の解析で,とくに砂漠学や考古学,地質学などへの応用研究に取り組んでいる。
原題名
Space Age Archaeology(SCIENTIFIC AMERICAN August 1997)