日経サイエンス  1997年11月号

脳と筋肉を襲うミトコンドリア病

D.C. ウォレス(エモリー大学)

 細胞内小器官ミトコンドリアは,核とは遺伝暗号の一部が異なる独自のDNAをもっている。それぞれの細胞には数百個のミコンドリアが含まれ,1つのミトコンドリアには数個の環状DNAがある。

 

 1980年代の後半から,ミトコンドリアDNAの異常のよって生じるさまざまな病気の特徴が明らかになってきた。これらの「ミドコンドリア病」の多くは遺伝病と考えられるが,核の遺伝子の変異が原因で生じる病気とは遺伝様式が異なり,結果として生じる病気の症状は,核遺伝子の変異によって生じるものに比べて,はるかに予測が難しい。また,生まれつきの異常はなくても,老化によってミトコンドリアDNAの欠損が生じ,発病するケースも考えられる。

 

 ミトコンドリアはすべての組織のエネルギーの供給源であるため,DNAに異常が生じると,中枢神経,心臓,骨格筋,腎臓,ホルモン分泌組織の順に影響を受ける。著者たちの研究によると,心臓病,糖尿病,アルツハイマー病などの原因になっている可能性も高くという。(本文より)

著者

Douglas C. Wallace

ウォレスはエモリー大学医学部分子遺伝学のロバート・W・ウッドラフ記念教授で,同大学分子医学センター所長を務める。微生物学と人類遺伝学でエール大学よりPh.D.を取得。エール大学で共同研究者とともに,ヒトのミトコンドリアDNAが遺伝性特性をコードしうることを初めて示した。人類遺伝学でのすぐれた貢献により,1994年の米国人類遺伝学会のウイリアム・アラン賞をはじめ,ヒトミトコンドリアゲノムの研究に対して多くの賞を受賞している。

原題名

Mitochondrial DNA in Aging and Disease(SCIENTIFIC AMERICAN August 1997)

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