
カイロの南西,ナイル川西岸のダハシュール地区の小高い丘の上で早稲田大学の発掘作業が進んでいる。姿を現したのは,今から約3300年前の古代エジプト新王国時代に建設された最大級の神殿風の貴族の墓「トゥーム・チャペル」。東海大学情報技術センターと早稲田大学古代エジプト調査室が1994年に開始した「人工衛星による未知のピラミッド探査計画」の初の成果だ。
古代文明が栄えていた当時の気候や周辺環境を再構成することも衛星からのリモートセンシングによって可能になる。たとえば10世紀ごろ栄えたペルーのシカン文化。ペルーの太平洋に面した海岸部は非常に乾燥した砂漠地帯で,シカン文化の遺跡はその砂漠が終わって山岳地帯に変わり始める場所に位置する。衛星画像を見ると,そのあたりに川が流れた跡があり,それに沿って当時の水路やダム,水門が一帯に作られていたことがよくわかる。こうした状況から,当時このあたりは今より湿潤でシカンの人々はその水を支配することで,トウモロコシなどを作り,安定した経済基盤を築いていたとみられる。
現在,世界各地で進んでいる環境破壊は古代遺跡の急速な崩壊をも引き起こしている。名だたる古代遺跡の保存も大事だが,各地に散らばる小さな遺跡や墳墓などは地域開発や気候変動によって,どんどん失われている。こうした遺跡を記録にとどめる上でも,人工衛星からのリモートセンシングによる考古学調査の重要性は増してきている。(本文より)
著者
坂田俊文(さかた・としぶみ)
東海大学情報技術センター所長,工学博士。科学技術庁所管の地球科学技術推進機構の機構長なども兼務。専門は画像情報工学,とくに人工衛星による地球環境観測,宇宙考古学などに取り組んでいる。