
砂漠というと鳥取砂丘やサハラ砂漠のような砂ばかりの地形が思い浮かぶが,アンデスのアタカマ砂漠はまったく違っている。次々と連なる山や丘には,背の低い,どう見ても枯れているとしか思えない灌木がところどころに生えているだけ。川らしき跡はあるものの水はまったくなく,生き物の気配はほとんど感じられない。太陽がギラギラと照りつけ,空気は乾燥し,ひたすら暑い。1年に300日以上も晴れるという言葉が素直に信じられる場所である。
そんな人間を拒絶しているような,だからこそ天体観測に向いている砂漠の5カ所,ラシヤとセロパラナル(ヨーロッパ南半球天文台,ESOと略される),セロトロロ,ラスカンパナス,セロパチョン(いずれも米国)に天文台が設置され,また建設が進められている。セロパラナル以外はアタカマ砂漠の南端に位置しており,チリの首都サンチアゴの北480kmのところにあるラセレナという町を起点としている。(本文より)
著者
野本陽代(のもと・はるよ)
サイエンスライターとして,宇宙科学を中心に多方面で活躍中。慶応義塾大学法学部卒業。著書に『ハッブル望遠鏡が見た宇宙』(岩波新書),『ふたたび月へ』(丸善),訳書に『クォークとジャガー』(マレイ・ゲルマン著,草思社),『ニュートンの時計』(アイバース・ピーターソン著,日経サイエンス社)などがある。