日経サイエンス  1997年11月号

天才物理学者ランダウの真実

G. ゴレリク(ボストン大学)

 ランダウ(Lev Davidovich Landau)の理論は,20世紀の物性物理学の骨格をなしている。彼の理論は,超流動,超伝導,天体物理学,素粒子物理学など,実に多くの専門領域にかかわるものだ。今日に至るまで,ランダウ準位,ランダウ反磁性,ランダウ・スペクトル,ギンズブルグ・ランダウ理論といった数々の発見は,物理学の重要な道具であり続けている。また,ランダウが書いた教科書は,何世代もの科学者を教えてきた。

 

 ランダウは1962年にノーベル物理学賞を受賞した。彼を崇拝する人々は,ランダウを象牙の塔の理論家だと考えているが,そういう人たちは,ランダウの人生に秘められた2つの政治的側面を見落としている。その2つとは,1930年代の後半にスターリンの監獄に収容されたこと,10年後にこの独裁者の核兵器製造に貢献したことである。

 

 グラスノスチ(情報公開)の時代に入り,これまで秘密にされてきたKGBの文書を入念に調べた結果,ランダウが明確な反スターリン主義者であり,KGBが絶えず彼を監視していたことが明らかになった。(本文より)

著者

Gennady Gorelik

ボストン大学の科学哲学・科学史センター研究員。1979年にロシア科学アカデミーの科学技術史研究所からPh.D.を授与された。グッゲンハイム・フェローシップとマッカーサー基金から助成金を得て,サハロフ(Andrei Sakharov)の伝記を執筆中である。 Sakharov)の伝記を執筆中である。

原題名

The Top-Secret Life of Lev Landau(SCIENTIFIC AMERICAN August 1997)