日経サイエンス  1997年8月号

極限微生物の隠れた能力

M. T. マディガン(南イリノイ大学) B. L. マース(Photosynthetic Harvest社)

 人間から見ると,とても生物がすめるとは思えないような環境にも生物はいる。100℃を超える深海の熱水噴出口の近くにも生物はいるし,凍りかかった南極海にもいる。胃酸よりも酸性度の高い環境や,高アルカリ性環境,塩分濃度の異常に高い湖にも微生物がすんでいる。面白いことに,たとえば高温にすむ微生物は,通常の温度では生きられない。

 

 こうした極限微生物は,過酷な環境下でも働ける特殊な酵素をもっている。この極限酵素は,工業的に大いに役立つ。洗剤に入っている酵素はアルカリ性の環境でも働くことのできる極限酵素の一種である。医学・生物学の研究に欠かせないPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)が完全自動になったのは,好熱細菌の酵素のおかげである。

 

 極限微生物研究の派生効果として,古細菌の特殊性が明らかになったこともあげられる。古細菌は今のところ,すべてが極限微生物である。古細菌は広い意味での細菌(原核生物)の仲間とされていたが,研究が進むにつれて,原核生物とは違うグループに分けられることになった。生物が,真核生物と原核生物の2グループから,古細菌を含めた3つのグループに分けられるようになったのである。(編集部)

著者

Michael T. Maddigan / Barry L. Marrs

2人はともに光合成細菌に興味をもっている。マディガンは1976年にウイスコンシン大学マディソン校で,ブロックの下で微生物学の分野で博士号を取得した。現在はカーボンデールの南イリノイ大学の教授である。マディガンは極限環境下の光合成細菌の多様性とその代謝様式に関心を寄せている。マースは1968年にケースウエスタンレザーヴ大学で生物学の学位を取得した。その後数年間,大学や企業に勤め,最近Recombinant Biocatalysis社を設立し,そこで極限微生物の酵素の工業化を手掛け,現在はPhotosynthetic Harvest社の創設社長として,緑色植物から薬品を作ることを目指している。

原題名

Extremophiles(SCIENTIFIC AMERICAN April 1997)

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