日経サイエンス  1997年7月号

特集:インターネットが変わる

「日経サイエンス」日経サイエンス1997年7月号で,米国のインターネット専門家8人が,これからネットはどう変わっていくかを鋭く分析・提言した注目の論文を発表します。堂々34ページの大特集です。

 

もう一度インターネットについて考えよう

34ページの大特集で,ソフト開発関係者,企業・大学の研究者,さらには一般ユーザーにとって,見逃せない内容となっています。なお,翻訳は慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの村井純グループによるものです。

 


論文タイトルと著者

 

迷宮探索の新エンジン  C. リンチ

  • インターネット上の優れた情報群は,上手な索引と分類をつくれば,“電子図書館”としての役割をもたせることができる。
  • しかし,現在は,多数の検索エンジンが,めったやたらに各サイトに徘徊・アクセスしており,これが本当のユーザーがアクセスするのを妨げているという事実がある。
  • 必要なのは,全コンテンツを読み込むのではなく,必要な索引情報のみを自動的に収集するHarvestのようなシステムだ。
  • また,現在の検索エンジンはテキスト情報のみを検索しているが,画像情報の検索,例えばヌード写真だけを検索する(?!)エンジンも開発中。

 

著者 Clifford Lynch:カリフォルニア大学学長室ライブラリーオートメーション室長

原題名 Searching the Internet(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

明日の電子図書館  M. レスク

  • 既存の図書館の側から,インターネットのような仕組みをどう生かしていくかというアプローチが始まっている。
  • 過去の膨大な資産をデジタル化するには,スキャンして画像データとして記録する方法と,テキストデータとして記録する方法があるが,それぞれの長所・短所がある。
  • 1つの方向は,オンライン学術雑誌のようなやり方だが,一般の人々も参加する図書館では,別の問題意識も必要になる。その最大の障害が「著作権」だ。
  • その結果,“適当に古い著作物”が,取り残される危険性がある。著作権の切れた過去の名作などはデジタル化され,だれでも容易にアクセスできるし,新作は従来のメディアを通して情報を手に入れることができる。ところが,「まだ著作権の期間が切れていないのでデジタル化できない著作物で,しかも出版社が絶版にしているような著作物」は,事実上,失われてしまう危険性がある。

 

著者 Michael Lesk:ベルコア=米国電話研究所=主任研究員

原題名 Going Digital(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

検閲の圧力を超える新技術  P. レスニック

  • ネット情報はまさに玉石混交。ゴミのような情報ならまだしも,ウイルスのような悪意の仕業もある。
  • 猥褻な画像や暴力的な情報,あるいはナチ信奉者の誤った情報などを子供たちが自由に見られる限り,必ず「検閲」の問題が浮上してくるはずだ。
  • これを回避し,民主主義的なインターネット環境を守り育てていく1つの方法は,発信情報に「ラベル」を付加すること。
  • この原則は,作る側が「内容を明示するラベルを自主的に付加すること」,見るユーザーは自分の判断で「どのラベルを選択あるいは取捨するかを決められること」で,第三者がラベル情報を提供することも可能。
  • これによって,例えばウイルス・チェックされていないサイトを回避することができる。しかし,これをやりすぎると,大手サイトだけに人気が集まりすぎ,既存のメディアとの違いがなくなってしまう。

 

著者 Paul Resnick:AT&T研究所研究員

原題名 Filtering Information On The Internet(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

ビジュアル・インターフェース  M. A. ハースト

  • WWWを使いこなすには,現在のようなブラウザーではなく,もっと人間の感覚にあったユーザーインターフェースが必要だ。
  • 例えば検索した情報群を,自分のパソコン上で,整理・分類してくれるソフトがあればよい。しかも,いろいろなサイトを「メイン画面に戻ることなくクリックできる」ような仕組みが便利だ。
  • Scatter/Gatherや3次元ツリー表示は,インターネットより使いやすいものにしていくだろう。

 

著者 Marti A. Hearst:ゼロックス社パロアルト研究センター

原題名 Interfaces For Searching the Web(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

画面なしのウェブサーフィン  T. V. ラーマン

  • インターネットの参加者は,視覚健常者だけではない。視覚障害者でもある著者は,HTML文書と既存のソフトを組み合わせ,音声で伝えてくれるウェブサーフィンの仕組みを構築してきた。
  • ところが最近,HTMLの表現規則を外しても閲覧できるような市販ソフトが幅をきかすようになり,このことが,事実上,視覚障害者をインターネットから排除することになった。
  • HTMLは,時代の先を読み,どんなユーザーも参加できるよう,熟慮の末に設計された仕組みだ。その哲学や思想を理解しない安易な商業主義は,特定のグループを阻害・排除する危険性をもつ。それは,インターネットという自由で民主主義的な環境の破壊者といえるかもしれない。

 

著者 T.V.Raman:アドビシステム社研究員

原題名 Websurfing Without a Monitor(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

続くか“英語中心主義”  B. オーデ

  • 世界中の人々が入り込んでいるインターネットには,言語の問題が必然的に入り込む。それぞれの国の言語を統一した形で扱えるような仕組みを作るべく,さまざまな試みがなされている。

 

著者 Bruno Oudet:フランス,ジョセフ・フーリエ大学教授

原題名 Multilingualism on the Internet(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

電子取引のセキュリティー  M. スティフック

 

  • ネット上で取引を可能にするには,安全な情報伝達の仕組みが必須であることはいうまでもなく,暗号化技術などにより,着々と整備されつつある。
  • しかし,それ以上に問題なのは,知的財産権の問題である。
  • 例えば,その情報を購入したあと「また貸し」した場合,また貸しした方の情報が自動的に消滅するような仕組みが検討されている。こうした仕組みを作らないと,インターネットがゴミだらけとなる可能性があるからだ。

 

著者 Mark Stefik:ゼロックス社パロアルト研究センター主任研究員

原題名 Trusted Systems(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)

 

 

文化資産としてのネット情報  B. カール

  • インターネットのサイトは,平均すると40日で更新されていく。これは,いわば時代の証言が刻々と消えていくことにほかならない。
  • 現在の,そして未来の歴史学者のために,現在のインターネット情報をすべて丸ごと記録しておこうというプロジェクトが始まった。
  • そこには,現在の社会が解決できない重要な問題が横たわっている。

 

著者 Brewster Kahle:インターネット・アーカイブ社創立者

原題名 Preserving the Internet(SCIENTIFIC AMERICAN March 1997)