日経サイエンス  1997年7月号

新薬開発とコンビナトリアル・ケミストリー

M. J. プランケット(アリス製薬社) J. A. エルマン(カリフォルニア大学バークレー校)

 コンビナトリアル・ケミストリーとは直訳すれば「組み合わせの化学」。構造的に関連はあるものの,少しずつ違う化合物を,短時間で多種類,しかも系統的に作り出すことができる技術である。現在,製薬会社を中心に「爆発的なブームを起こしている」(日本のコンビナトリアル・ケミストリー研究会幹事会による用語解説より)。新しい技術であるため,実際にこれを使ってできた新薬はまだないが,いくつかが臨床試験中で,時間の問題であることは間違いない。

 

 新薬の開発では,何か生理活性のある化合物をまず探し出し,次にこのリード化合物を化学的に修飾して,前よりも優れたものにしていく。以前は,一度に1つの修飾をして,その生理活性を調べて,という手順を踏んでいたが,コンビナトリアル・ケミストリーでは,組み合せを利用して多数の化合物を効率的に合成する。具体的には,たとえば,関連のある30種類の化合物群と別な30の化合物群を組み合わせて反応させ,900種類の生成物を作り出す。

 

 初めはアミノ酸を構成単位とするペプチドの合成のために開発された技術だった。ペプチドは医薬品にはなりにくいため,製薬会社からそれほど注目されなかったが,著者たちが医薬品になりうる低分子化合物にも応用できることを示すに及んで,今日のブームが巻き起こった。

 

 すでに決まり切った単純作業は自動化されているが,まだまだ新しい工夫の入る余地のある技術である。(編集部)

著者

Matthew J. Plunkett / Jonathan A. Ellman

2人は,コンビナトリアル技術の医薬品様分子への応用についてカリフォルニア大学,バークレー校で共同研究をした。プランケットは1996年にバークレー校でPh.D.を取得した後,アリス製薬社に移った。そこでランダムスクリーニングとプロテアーゼ阻害に関するコンビナトリアル・ライブラリーを構築する研究を行っている。エルマンは1992年にバークレー校の教授となった。エルマンの研究室の研究課題は有機化合物ライブラリーの合成化学を新たに開発することと,化学や生物学の様々な問題にライブラリー法を応用することである。

原題名

Combinatorial Chemistry and New Drugs(SCIENTIFIC AMERICAN April 1997)