日経サイエンス  1997年4月号

製薬工場としてのトランスジェニック家畜

W. H. ベランダー(バージニア工科大) H. ルボン(米国立衛生研究所) W. N. ドロハン(ジェローム H. ホランド研究所)

 動物の胚を操作するトランスジェニック技術を用いることにより,人間のタンパク質を,動物の体を借りて作り出すことができる。その一例として,マウスの自己抗体の発現をブロックして,ヒトの抗体遺伝子を導入し,ヒト型抗体を作らせる,という方法がすでに成功を収めている(西義介「ヒトの抗体を作るトランスジェニックマウス」1995年6月号参照)。こうして得られたタンパク質は,治療薬として非常に有効であるため,トランスジェニック動物の研究開発に寄せられる期待は大きい。

 

 著者たちは,酪農用の家畜を利用して,そのミルクからヒトのタンパク質を得るという研究に取り組んできた。動物の生命に影響を与えることなく,人間にとって有用な物質を回収するというのは魅力的なアイデアであり,すでにいくつかのグループが,ウシやヤギ,ヒツジなどを用いて研究を行っていたが,著者たちは,妊娠サイクルが短く,乳量の多いブタに着目した。

 

 まず血液凝固を制御する働きをもつヒトのプロテインCの遺伝子を,マウスのミルクタンパク質のプロモーターと組み合わせ,このDNAをブタの胚に注入した。この受精卵を代理母ブタに移植したところ,ミルク中に高い濃度でヒトのプロテインCを含むブタが誕生し,このタンパク質が正しく機能することも確かめられた。

 

 この方法は,少量のタンパク質を得るために大規模な細胞培養設備を使うよりも,操作やコストの点ではるかに効率がよい。(編集部)

著者

William H. Velander / Henryk Lubon / William N. Drohan

3人はトランスジェニック動物を用いて,稀少医薬品を開発するためにほぼ10年間,いっしょに研究してきた。ベランダーはバージニア工科大とバージニア州立大の生物化学工学の教授である。彼は1987年ペンシルベニア州立大学より学位を受ける。ルボンは1981年,ポーランドのルブリンにある農学アカデミーよりPh.D.を受け,1990年,米国に移住した。ルボンは米国立衛生研究所(NIH)と,現在スタッフサイエンティストである米国赤十字ジェローム H. ホランド研究所で働いてきた。ドロハンは1974年,カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部で学位を受けた。民間企業,NIHで働いた後,1987年にジェローム H. ホランド研究所に着任した。ドロハンは現在,血漿由来成分部門の部長である。

原題名

Transgenic Livestock as Drug Factories(SCIENTIFIC AMERICAN January 1999)

サイト内の関連記事を読む