日経サイエンス  1997年4月号

超新星1987Aの10年

野本憲一(東京大学大学院)

 ちょうど10年前,大マゼラン雲という宇宙のスケールでは私たちのすぐ近所で,超新星1987Aの大爆発が起こった。このようなチャンスは数百年に1回程度と考えられ,現代の天文学者はまさに千載一遇の機会を得たのだった。

 

 実際,カミオカンデIIによるニュートリノの観測をはじめ,「ぎんが」「あすか」などのX線観測衛星,さらには南半球各地の光学望遠鏡や電波望遠鏡,そしてハッブル宇宙望遠鏡と,人類はありとあらゆる“目”を通して,この超新星を観測し続けてきた。同時に,シミュレーションなどの理論研究も並行して進められてきた。

 

 その結果,超新星の理論が精密なものとなり,たとえば,現在の宇宙論で最も深刻な問題であるハッブル定数を決めるうえで,かなり確かな方法を手にすることができた。遠方の超新星を観測することで,宇宙のサイズや年齢や空間の曲がりなどのパラメーターを求めることができたのである。始原的な隕石に含まれる元素の同位体組成比と太陽組成比が異なるという問題についても,この超新星は解決への重要な手がかりを提供しつつある。

 

 多くのことが明らかになるとともに,新たな謎,新たな研究テーマも次々と現れている。たとえば超新星1987Aでは,中性子星が作られたのかそれともブラックホールが作られたのか。3つのリングが観測されているが,これらはどのようにして作られたのか。いずれも解明を待っている重要なテーマである。(編集部)

著者

野本憲一(のもと・けんいち)

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻教授,理学博士。専門は宇宙物理学で,とくに星の進化論,銀河の化学進化論,元素の起源論,超新星などの爆発的現象を研究している。SN1987Aに関しては,出現時から10年後の今日まで,常に先頭に立って研究を推進してきた。