日経サイエンス  1997年4月号

「日経サイエンス創刊25周年記念論文賞」最優秀賞 

彗星の木星衝突―塵生成の謎を追う

渡部潤一 長谷川均 竹内覚

 1994年7月,シューメーカー・レビー第9彗星の破片が次々に木星に衝突した。1000年に1度といわれるほどまれな現象であり,人類が初めて遭遇した大規模な天体衝突であった。

 

 ところで,当初は,この彗星の衝突後には木星には何の痕跡も残らず,通常の望遠鏡では何も見えないだろう,とだれもが思い込んでいた。木星は地球と違って,基本的にはガスの惑星である。そこへ彗星のような天体が衝突しても,巻き上がるのは気体分子であり,可視光で見えるような痕跡はできない,と思われていたのである。

 

 ところが,実際は各衝突地点に衝突の規模に応じた大きさの,まっ黒な塵による痕跡ができたのである。大きな核の衝突では,直径が2万kmを超えるほど巨大なものとなり,内側の点状の濃い部分と,外側の三日月型の部分からなる不思議な二重構造を示していた。これらの痕跡は,その黒さと大きさのために木星面上では大赤斑よりも目だつ模様になった。

 

 著者たちは,衝突現象の赤外線観測データをもとに,この痕跡をつくった大量の塵が彗星起源のシリケイトをもとにしたものであり,爆発現象にともなうきのこ雲の冷却過程でいったん蒸発したシリケイトが再び凝結したものであることを示している。また,このほかのいくつかの衝突現象の特徴を説明する。さらに,予測し得なかった天体衝突における塵の生成が木星にどのような気象学的な異変をもたらしたかにも触れ,その地球の場合との比較についても言及している。(編集部)

著者

渡部 潤一(わたなべ・じゅんいち) / 長谷川 均(はせがわ・ひとし) / 竹内 覚(たけうち・さとる)

3人はアマチュアとプロの枠を越えた研究仲間である。渡部は1983年に東京大学理学部を卒業後,87年東京大学東京天文台(現国立天文台)助手に。94年から同広報普及室長を併任している。長谷川は,1980年日本大学文理学部卒。フリーランス・プログラマーなどを経て87年から(株)アステックに勤務。竹内は1988年東京都立大学理学部卒,96年九州大学大学院博士課程を修了。1996年からは宇宙開発事業団招聘研究員。彗星が木星に衝突することがわかった1993年、彗星研究者であった渡部、木星研究者であった長谷川、そして惑星大気現象を気象学の観点から研究していた竹内が集まり、観測の方針から解析までを協同で進めてきた。今回の論文はその集大成ともいえる。