日経サイエンス  1997年2月号

火星の水はどこに消えた

J. S. カーゲル(米国地質調査所) R. G. ストローム(アリゾナ大学)

 火星から飛来した隕石に生命の痕跡があった,という米航空宇宙局(NASA)の発表は,多くの人々を驚かせたが,その可能性はゼロではない。なぜなら,10億年前の火星の気候は温暖で,海や川があり,生命体が存在していてもおかしくない環境だったらしいからだ。とくに,大量の水が地表を流れたという証拠が,数多くの地形に残されている。しかし,何らかの理由で水と,温室効果のある二酸化炭素がなくなり,火星は寒冷化していった。その後何度か温暖化した時代があったようだが,今では大気はきわめて薄く,水分もほとんどない乾いた惑星になってしまった。このような気候変動を説明する理論の1つに,火星の自転軸の傾きが周期的に変化するという仮説がある。

 

 11月に打ち上げられた米国のマース・パスファインダーをはじめ,今後10年間に地球から火星に10機以上の無人探査機を送り込む計画がある。探査機は詳しい地質調査などを通じて,火星はいつまで暖かかったか,生物はいたかなど,その歴史をはっきりさせることができるだろう。(編集部)

著者

Jeffrey S. Kargel / Robert G. Strom

2人は,10年以上にわたって惑星科学のさまざまなプロジェクトに携わっている。カーゲルは,アリゾナ大学大学院に入学してストロームに出会い,ここで1990年に惑星科学の博士号を取得した。博士号取得後2年間,アリゾナ大学の月惑星研究所に残り,外惑星の氷衛星を研究した。その後,アリゾナ州にある米国地質調査所の天体地質学グループに加わった。ストロームは,はじめは石油地質学が専門だったが,1960年代には月の研究に打ち込み,アリゾナ大学の教員となって授業や研究指導を続けている。彼は,アポロ計画,金星および水星探査のマリナー計画,そして外部太陽系探査のボイジャー計画のために米航空宇宙局(NASA)が集めた科学チームに加わっている。

原題名

Global Climate Change on Mars(SCIENTIFIC AMERICAN November 1996)

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