日経サイエンス  1996年9月号

太陽光と皮膚ガン

D. J. レッフェル D. E. ブラッシュ(ともにエール大学)

 米国内だけで毎年約100万人の人々が皮膚ガンを発症し,この数は他のすべてのガンの発症数に匹敵するという。米国では最も関心の高いガンの1つである。皮膚ガンは皮膚の3種の細胞,「基底細胞」,「有棘細胞」,「色素細胞(メラノサイト)」のいずれかで発症し,細胞の種類に応じた名前で呼ばれている。

 

 太陽光線が皮膚細胞のガン化にとって大きな環境因子であることはよく知られている。太陽光線が皮膚細胞に到達し,紫外線がDNAに傷害を与えるためである。著者たちはさらに研究を進め,ガン抑制遺伝子p53の傷害が基底細胞と有刺細胞のガン化に大きな意味をもつことを突き止めた。

 

 通常,私たちの体には,傷ついたDNAを修復したり,あるいは修復不可能なダメージを受けた細胞を自殺(アポトーシス)に導いて,正常な状態を維持しようとする機能が備わっている。ところが,頻繁に太陽光線にさらされると,傷害を受けたp53遺伝子のDNAが修復されないうちに細胞が増殖したり,アポトーシスが起こらなる,といった異常な事態に陥り,これがガン細胞の増殖につながっていく。

 

 皮膚ガンのほとんどは老年期に発症するが,日光によるダメージそのものは,10代あるいはそれ以前から生じている可能性が大きい。最大の予防策は遮光であり,その重要性は今後ますます大きくなっていくだろう。

訳者ノートとして,日本の皮膚ガンの疫学的研究についても書き加えてあります。(編集部)

著者

David J. Leffel / Douglas E. Brash

2人は,皮膚ガンのガン化過程における太陽の役割を10年近く研究してきた。レッフェルはエール大学医学部の皮膚科・外科の教授であり,臨床の現場で得た経験をこの共同研究に生かしている。彼はマックギル大学で1981年にM.D.(医学博士)を取り,コーネル医科大学,スローン・ケッタリング記念ガンセンター,ミシガン大学を経て,1988年にエール大学の教授職を得た。ブラッシュもまたエール大学教授だが,彼はイリノイ大学で物理工学の学士となった後,1979年オハイオ州立大学の生物物理学の研究でPh. D.を得た。その後1984年まで彼はハーバード大学公衆衛生学部(大学院)の微生物学,同大学医学部の病理学教室でポスドクのトレーニングを受け,エール大に移るまでの5年間,米国立ガン研究所で研究生活を送った。

原題名

Sunlight and Skin Cancer(SCIENTIFIC AMERICAN July 1996)

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