日経サイエンス  1996年9月号

世界最強の永久磁石

佐川眞人(インターメタリックス社) 石垣尚幸 広沢哲(ともに住友特殊金属)

 永久磁石といえば,地味な文房具という印象が強い。確かに磁力が弱い磁石はメモ用紙を留めておくぐらいの能力しかないが,この論文で取り上げるのは,世界最強の永久磁石である。コンピューター,ビデオカメラ,医療機器など身の回りのハイテク製品の大半は,この超高性能の永久磁石がなければ役に立たない。永久磁石に多彩な活躍の場があることに,読者の皆さんは驚かれるに違いない。

 

 永久磁石の開発の歴史をたどると,有名な本多光太郎のKS鋼の発明以来,日本人の貢献がなぜか大きい。そして今,世界最強の永久磁石も著者たちのグループによるものである。それまで顧みられることがまったくなかったネオジムという希土類金属に着目し,新しい金属間化合物を発見したことから開発物語が始まる。

 

 永久磁石自体は電気製品でも機械でもない単なる部品なので,作るのはごく簡単に見える。しかし,新しい化合物を磁石材料に仕立て,磁石材料を磁石製品にするまでの苦労は並大抵ではなかった。開発グループは数々の幸運に巡り合えたが,それにしても,超高性能磁石を作りたいという強烈な意志がなければ,サクセスストーリーは生まれなかっただろう。

 

 ネオジム磁石の生産量は,年を追うごとに飛躍的に伸びている。しかし,世界最強の永久磁石の開発はこれで終わりではない。原子レベルで材料を制御してさらに高性能の磁石を作る研究もすでに始まっている。(編集部)

著者

佐川眞人(さがわ・まさと) / 石垣尚幸(いしがき・なおゆき) / 広沢哲(ひろさわ・さとし)

著者 佐川眞人(さがわ・まさと)
インターメタリックス(株)代表取締役。工学博士。東北大学大学院博士課程を修了し,富士通に入社。1982年住友特殊金属に移り,ネオジム磁石の発明から開発に至るまで,中心的な役割を果たした。1986年米国物理学会賞,1990年朝日賞,1994年に大河内記念賞などを受賞。現在はRIP技術の開発など,新しいプロセス技術を開発中。

著者 石垣尚幸(いしがき・なおゆき)
住友特殊金属開発本部主席研究員兼マグネット開発室長。工学博士。1969年名古屋大学大学院修士課程を修了し,同社へ。ネオジム系の焼結磁石・ボンド磁石などの研究開発に取り組んでいる。1994年大河内記念賞を佐川氏らと受賞。

著者 広沢哲(ひろさわ・さとし)
住友特殊金属研究開発部基礎研究室主任研究員。工学博士。1981年京都大学大学院博士課程を修了し,米ピッツバーグ大学で研究助手。1984年に同社へ。1987年日本金属学会技術開発賞を佐川氏らと受賞。ナノコンポジット磁石などの研究を行っている。