日経サイエンス  1996年8月号

オリンピック選手を支えるスポーツ科学

J. T. カーニー(全米オリンピック委員会)

 この半世紀の間に,スポーツ科学は著しい進歩をみせ,かつては考えられなかったようなさまざまなトレーニングの原則が知られるようになった。運動生理学者と各競技のコーチは協力して,オリンピックで行われる29の競技のそれぞれにおいて,要求される筋力および代謝系(循環呼吸系)のトータルなフィットネスに関する知見を精力的に獲得していった。

 

 またバイオメカニスト(運動力学者)たちも,コンピューター,ビデオ,その他の装置を駆使して各競技の動きを分析した。用具,器具関連のデザイナーも,素材や空気抵抗などの研究をもとに,流線型のボブスレーやレーシング用自転車を開発してきた。さらに,スポーツ心理学者は,メンタルトレーニング法を開発し,選手に自信を植え付けた。

 

 いまや,世界チャンピオンを生み出す舞台裏は,スポーツ科学の総合的な支援を見逃すわけにはいかない時代になっている。

著者

Jay T. Kearney

メリーランド大学で運動生理学の博士号を取得したカーニーは,現在,全米オリンピック委員会(USOC)のシニア選手部門のスポーツ生理学者として活躍中。1974年から1986年までケンタッキー大学生理学部門の教授を,その後,1988年から1992年まで,コロラドスプリングスにあるUSOCトレーニングセンターのスポーツ科学・スポーツテクノロジー部門の主任を務めた。1980年,モスクワオリンピックに向けて,彼はカヌーチームの指導をしていたが,旧ソ連のアフガニスタン侵攻事件の発生を理由に米国政府がオリンピック参加をボイコットしたことにより,カヌーチームのオリンピック参加も実現しないで終わった。今回,この論文を書くうえで,USOCトレーニングセンターのスポーツ科学・スポーツテクノロジー部門の各スタッフの協力を得たこと,とくに,ミュリガン(Susan Mulligan)研究員の協力を得たことを付記する。

原題名

Training the Olympic Athlete(SCIENTIFIC AMERICAN June 1996)