日経サイエンス  1996年6月号

ブレークスルーを待つナノテクノロジー

G.スティックス(Scientific American誌スタッフ・ライター)

 ナノテクノロジーは,大きさが100nm(0.1μm)程度までのミクロな物質や構造を作り出す技術である。学問分野としては,従来の合成化学から原子1個1個を極微小のプローブで操作する技術までカバーしている。ミスター・ナノテクノロジーと呼ばれるドレクスラーは,ナノスケールの製造技術はやがて分子ロボットを実現し,19世紀の製造技術をはるかに超越すると予測する。

 

 彼のいう万能ナノマシンを使えば,宇宙船から病気と闘う小さな潜水艦に至るまで,何でも作れるという。しかも,生物細胞と同じように,それらのロボットが集まって,彼ら自身を複製することも可能だ。その上,空気,砂糖,安い炭化水素といった原材料費と設計費用以外,ほとんどコストがかからないのである。 

 

 ドレクスラーは,根本的な社会変革の未来像を描いている。安くて高速なナノ生産が実現すれば,世界の飢餓は軽減され,環境は浄化され,ガンは撲滅され,天寿をまっとうできるようになる。一方で,未知なる恐怖をもたらす超兵器の開発さえ可能であると信じているのだ。

 

 現在,研究者は原子や分子を微小なプローブで操作して,20個の必須アミノ酸を並べ変えて,自然界にないような新しいタンパク質を作ったり,有機分子が金属表面でみずから規則正しく配列するように“手助け”できるようになった。このような技術は,次の時代を担う最有力技術ではあるが,ドレクスラーのいう分子マシンとはなお,大きなギャップがある。根本的な問題を解決するブレークスルーが待ち望まれている。

(編集部)

原題名

Waiting for Breakthroughs(SCIENTIFIC AMERICAN April 1996)

サイト内の関連記事を読む