日経サイエンス  1996年5月号

量子ホール効果と超伝導の深い関係

S.キベルソン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校) D.-H. リー(カリフォルニア大学バークレー校) S.-C. チャン(スタンフォード大学)

 「量子ホール効果」と「超伝導」が,実は奥深いところで密接に関係しているというわくわくするような事実が明らかになった。

 

 量子ホール効果は,極低温の状態で2次元界面に閉じ込められた電子が起こす現象で,磁場を強くしていくとき,電流と直角方向の電圧(ホール電圧)が,連続的ではなく階段状に増えていく。この驚くべきところは,物質中の電圧変化というマクロな現象であるのに,階段状の電圧値が,プランク定数や素電荷という物理学の基本定数で説明できることだ。この発見には1985年のノーベル賞が贈られた。

 

 一方の超伝導も,基本的には極低温での現象であり,電子というミクロな存在が,マクロなスケールにおいて,ある種の秩序状態を生み出した現象といえる。1987年には高温超伝導の発見にノーベル賞が贈られた。

 

 この2つの特異な現象が,実は,物理学の深い部分で密接につながっているというのだ。たとえばフェルミオンである電子が,3つの磁束量子を伴った「複合ボゾン」であると考えると,超伝導状態になることができ,超伝導状態になった複合ボゾンには,量子ホール効果が起こることがわかった。

 

 さらには,絶縁体と金属の性質を同時に示す物質状態が存在するという信じられない予言さえ登場した。しかし,最近の実験で,この事実も確かめられた。このようにエキサイティングな事実が次々に発見され,より本質的な物理学的世界が見えてきた。(編集部)

著者

Steven Kivelson / Dung-Hai Lee / Shou-Cheng Zhang

3人は,超伝導と量子ホール効果を関連づける共同研究を行った。キベルソンは,ハーバード大学で博士号を取得した後,いくつかの研究所を経て,現在カリフォルニア大学ロサンゼルス校物理学科の教授である。リーは,マサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得し,IBMワトソン研究所で研究を行った後,カリフォルニア大学バークレー校に移った。チャンは,現在スタンフォード大学準教授で,ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校でPh.D.を取得後,カリフォルニア大学サンタバーバラ校やIBMアルマデン研究所で研究を行ってきた。

原題名

Electrons in Flatland(SCIENTIFIC AMERICAN March 1996)