日経サイエンス  1996年5月号

ゲノム解析が医療にもたらした波紋

T. ベアズリー(Scientific American スタッフライター)

 ヒトゲノム解析計画がスタートして5年半が経過した。このプロジェクトは当初,2005年の完了を目標にしていたが,塩基配列を読み取るシークエンサーの自動化,高速化などにより,計画完了は2年ほど早まりそうだ。

 

 ゲノム解析が進むにつれて,大量の遺伝子のデータが吐き出されるようになった。そのなかには,病気を引き起こすと考えられる「疾病関連遺伝子」も多く含まれている。これらの遺伝子に変異があるかどうかを調べれば,将来の発病の危険性を知ることができる。このような遺伝子の発見は,医学や生物学からみれば画期的な成果であるが,個人や社会にとっては深刻な問題を引き起こす。遺伝子変異が見つかっても,発病の確率が人それぞれ違う場合もあるし,治療法がない病気も多い。現実に,将来発病する可能性があるという理由で,健康な人が保険契約を断られたり,仕事につけなくなるケースも出てきた。

 

 遺伝子検査は本当に必要なのか,個人の遺伝子情報を守ることができるのか,治療費など医療の問題とどう取り組むか。解決していかなければならない課題がたくさん生じている。

著者

Tim Beardsley

原題名

Vital Data(SCIENTIFIC AMERICAN March 1996)