
日本人が発見した百武彗星が先月末に地球に最接近し,その雄姿は天文ファンの目を存分に楽しませてくれた。しかし,喜んでばかりはいられない。この彗星は地球から1500万・のところを通り過ぎたが,もし地球を直撃するコースをたどっていたらどうなっていたか。
彗星の多くは太陽系の外縁部からやって来る。多量のガスやチリを放出しながら,地球の周辺を猛スピードでかすめていく。一方,小惑星はふだんは火星と木星の間の小惑星帯にあるものの,小惑星どうしの衝突と木星の引力により,かけらが地球の近くまではじき飛ばされることがある。地球の大気がなかった時代には,これらの天体が地上に絶え間なく降り注いでいた。
事態が差し迫っているわけではないが,宇宙をさまよう彗星や小惑星は,人類とその文明に重大な脅威を与えかねない。米国の科学者たちは,危ない天体を監視する「スペースウオッチ」計画を官民の協力のもとに始動させ,これまでに大きさ10mクラスの小惑星が予想の40倍も多いことを見いだした。
地球に向かってくる大きな天体が見つかれば,どう対処したらよいだろうか。武器倉庫にありあまる核ミサイルを飛ばして爆破するのが早道だが,地球に近づき過ぎているとダメだ。著者によれば,タイムリミットは50年前! 百武彗星のように発見が数カ月前だったら,もはや手遅れだという。(編集部)
著者
Tom Geherels
ゲーレルスは,オランダのオールト(Jan Oort)の授業に出席し,そこでオールトの雲と呼ばれる球核状の彗星の巣の存在についての推察を聞き,天体に興味を持った。現在,ツーソンにあるアリゾナ大学惑星科学科の教授,インドの物理学研究所のサラブハイ(Sarabhai)記念教授,それに彗星や小惑星を発見しているアリゾナ州のキットピーク天文台のスペースウオッチ計画の主任を兼ねている。
原題名
Collisions with Comets and Asteroids(SCIENTIFIC AMERICAN March 1996)