日経サイエンス  1996年4月号

テロメアとガン

SCIENTIFIC AMERICAN February 1996

C. W. グライダー(コールド・スプリング・ハーパー研究所) E. H. ブラックバーン(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)

 染色体末端にあるテロメアDNAは単純なヌクレオチド配列の繰り返しであり,複製による染色体の短縮や他の染色体との融合を防ぐ役割をしている。

 

 テロメアの重要性は半世紀以上前から指摘され,1970年代に入ってJ. ワトソンが,DNAの末端を維持するための複製機構の必要性を唱えた(末端複製問題)こともあり,テロメアの重要性が強く意識されるようになった。1978年,ブラックバーン(著者のひとり)らのグループは,ついに原生生物テトラヒメナでテロメアDNAの構造を決め,この構造がほとんどの真核生物に共通であることが明らかになった。その後,テロメアDNAの修復を行う酵素テロメラーゼの存在が突き止められ,現在,テロメアは細胞の増殖や不死化の研究の焦点になっている。

 

 通常,体細胞はテロメラーゼをもたないため,テロメアの反復配列は細胞分裂のたびに短くなり,限界まで短縮すると分裂停止のシグナルが出て細胞は増殖できなくなる。これに対して,ガン化した細胞にはテロメラーゼ活性があることがわかった。ガン細胞が無限に増殖できるのは,限界を越えた短いテロメアがテロメラーゼによって細胞分裂のたびに修復されるためと考えられる。

 

 

再録:別冊日経サイエンス208「生命解読」

著者

Carol W. Greider / Elizabeth H. Blackburn

2人の共同研究は,カリフォルニア大学バークレー校にあったブラックバーンの研究室にグライダーが参加した1983年から始まった。グライダーは1987年にパークレー校から分子生物学でPh.D. を取得した。現在はコールド・スプリング・ハーパー研究所の主任研究員である。ブラックバーンは,1975年にケンブリッジ大学で分子生物学の学位を取得した。現在はカリフォルニア大学サンフランシスコ校の微生物学・免疫学講座の主任教授である。