日経サイエンス  1996年4月号

数値計算で発見した素粒子

D. H.ワインガルテン(IBMワトソン研究センター)

 紙と鉛筆で計算するのが,理論物理学,とくに素粒子理論の主要な研究方法である。ところがこの分野にも,強力なコンピューターが援軍として入ってきた。実際,「ハドロンの質量」を求める問題をコンピューターにまかせ,基礎理論の正しさを確認したり,新たな素粒子を発見することが可能になったのである。

 

 著者たちは,量子色力学(QCD)の計算専用の超高速並列コンピューターを製作した。GF11と呼ぶこのマシンは566個のプロセッサーからなり,毎秒11ギガフロップス,すなわち110億回の浮動小数点演算を実行できる。最初の計算では,アップ,ダウン,ストレンジという3つのフレーバーをもつクォークと反クォークだけを使って,11個のハドロンの質量を計算で求めた。そのうちの8個が「予言値」であるが,それぞれ実験値と6%の範囲内で一致した。この計算結果は,QCDの正しさを再確認するものとなった。

 

 次に著者たちは,閉じたカラー電場によって作られる「グルーボール」の性質を求めた。具体的には,その質量と他の安定な粒子に崩壊する確率を計算したのである。448台のプロセッサーを2年間休みなく走らせて得た計算結果を,過去のさまざまな実験データとつき合わせてみた。その結果,過去12年間のいくつかの実験の中に,すでにこの粒子が現れていたことがわかった。コンピューターを用いた大規模な数値計算による初めての素粒子の“発見”である。

著者

Donald H. Weingarten

ニュ-ヨーク州のヨークタウンハイツにあるIBMワトソン研究センターの研究スタッフ。コロンビア大学でPh.D を取得し,現在,米国物理学会の特別会員である。数値計算による量子色力学の研究のほかに,重力の量子論やさまざまな種類の計算機アーキテクチャを探求している。

原題名

Quarks by Computer(SCIENTIFIC AMERICAN February 1996)