日経サイエンス  1996年4月号

雑音で海中の物体を撮影する

M. J. バッキンガム J. R. ポッター C. L. エピファニオ(ともにスクリップス海洋研究所)

 海中を探査したいときは,音響探査装置(ソナー)を使うのが最も一般的である。こちらから発信した超音波の反射強度を測定する方法(アクティブ)と,目的の物体が出す音を検知する方法(パッシブ)の2つがあるが,どちらの場合も水面下の雑音が邪魔をする。雑音の除去が精度を向上するための課題だった。

 

 しかし,著者たちは雑音がアクティブでもパッシブでもない第3の探査手段になる可能性に気づいた。ヒントになったのは,大気中の昼間の光である。人間は明るい光の散乱や反射のおかげで物体を見たり,写真に撮ったりすることができる。同じように,海中に充満している雑音も“視覚”として役に立つのではないか。

 

 物体は特定の周波数の音を散乱・反射する。音響学的にいえば,この現象は音の“色”として扱うことができる。そこで著者たちは多数の水中マイクロホンを取り付けた音響受信機で雑音を集め,物体の「色を見る」音響昼光撮影法(acoustic-daylightimaging)を開発した。新しい撮影システムは静止した物体の疑似カラー画像化に続いて,動きの素早いシャチの映像をとらえる実験にも成功した。

 

 現状では映像の解像度は低いが,チャンネル数を増やせば画質は確実に向上する。撮影システムは本質的に対象物に気づかれることがないので,潜水艦の探知や大型構造物の監視,海産哺乳動物の計数などに応用できるかもしれない。

著者

Michael J. Buckingham / John R. Potter / Chad L. Epifanio

彼らはカリフォルニア州ラホーヤにあるスクリップス海洋研究所で音響昼光撮影法を開発した。 バッキンガムは同所の海洋音響学の教授で,英国サザンプトン大学の客員教授である。彼は英国のレディング大学で物理学のPh.D.を授与され,数多くの音響学に関する論文と本を書いている。 ポッターはヨットマンで,先秋,国立シンガポール大学音響学研究所を目指して太平洋を横断した。南極半島で4 年間の夏を過ごした後に,ケンブリッジ大学などかPh.D.を授与された。エピファニオはスクリップスにおける音響昼光撮影の研究でもうすぐPh.D.を授与されるであろう。彼はバックネル大学で電気工学科を卒業している。著者たちはサンディエゴのシーワールド,同ハッブス研究所,そして米国海軍研究所の研究支援に対して感謝している。

原題名

Seeing Underwater with Background Noise(SCIENTIFIC AMERICAN February 1996)