日経サイエンス  1996年4月号

リンネによる植物の性体系

L. シービンガー(ペンシルベニア州立大学)

 リンネ(Carl von Linne)は18世紀の啓蒙の時代を代表する博物学者であり,近代分類学の父とも呼ばれているが,彼の植物の分類法は,必ずしも皆に受け入れられたわけではなかった。

 

 リンネは,植物も“結婚”をすると考え,結婚形態や雄しべ,雌しべの数などをもとにして植物を分類した。各グループの名前にも,妻,夫などという意味の言葉を使っている。たとえば,雌雄両性花をつける植物は「1つのベッドでやすむ」,1本の植物で雌花と雄花の両方をつけるタイプは「1軒の家で別々のベッド」などとした。

 

 リンネの分類に基づくと,一夫一婦制にしたがった植物はごくわずかで,“一妻多夫”の植物も多かった。敬虔なプロテスタントであったリンネは,この分類体系であからさまな性のイメージを表現しようとしたわけでは,もちろんなかったが,低俗な恋愛小説よりも下劣だと決めつける知識人は少なくなかった。

 

 また,リンネの分類体系を見ると,彼が18世紀当時の価値観を自然科学の世界に持ち込んでいることがわかる。たとえば,まず雄しべに基づいて植物を分け,それから雌しべに基づいて細分している。雄しべを優先させる生物学的な根拠は特になく,ただ性別に対する伝統的な考えが入り込んだのである。この体系は皮肉にも,民主運動が盛んで「人類は生まれながらにしてみな平等」という考えが浸透しつつあったヨーロッパで,女性は男性に従うのは“自然なこと”であるという理由付けにもなってしまった。

著者

Londa Schiebinger

ペンシルベニア州立大学の歴史と女性研究の教授であり,また同大学のWomen in the Sciences and Engineering Institute の創立理事。1984年にハーバード大学で博士号を取得した。科学における女性とマイノリティの研究者数を増やす運動を熱心に行っている。現代科学文明における女性についての本を最近執筆しており,来年,ハーバード大学出版局から出版予定である。

原題名

The Loves of the Plants(SCIENTIFIC AMERICAN February 1996)