日経サイエンス  1996年2月号

大型望遠鏡「すばる」

海部宣男(国立天文台)

 国立天文台がハワイ島のマウナ・ケア山頂に建設する口径8.2mの大型光学望遠鏡「すばる」が,その全容を見せはじめた。山頂のドームはほぼ完成,望遠鏡構造の仮組みも国内でほぼ終わり,今年の夏から現地で組み立て作業が始まる。心臓部である8.2mの主鏡も,米国で研磨の段階に入った。

 

 この装置を一言でいえば「メカトロオプティクス技術を駆使した新世代望遠鏡」ということだ。主鏡にしても,そのままでは重力によって歪んでしまう。そのため,多数のアクチュエーターと制御技術を駆使して,常に最適な鏡面を維持するようになっている。また,構造体をスムーズに駆動したり,熱や風によるゆらぎを最少にするために,最高の技術が導入されている。

 

 「すばる」は,人類究極の目標である“宇宙の果て”を観測する。東京から富士山の上にあるテニスボールが見分けられるほどの分解能をもっており,明るい銀河であれば,宇宙の晴れあがり直後の形成時期までさかのぼって観察することができる。期待はそれだけではない。とくに赤外線領域での観測は注目に値する。低温の星間物質は電波で,高温の星は可視光で観測されるが,赤外領域はその中間の遷移状態に対応する。そのため,星間物質から星や惑星系が誕生する仕組みなどが解明できる可能性が高い。

 

 「すばる」などの新世代望遠鏡は,銀河から惑星まで,膨張宇宙の中の天体史を見通し,さらに宇宙の中の生命を探る第一歩を踏み出すだろう。
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右上のすばる構造図はもっと大きくご覧頂けます。

著者

海部宣男(かいふ・のりお)

国立天文台教授・企画調整主幹,理学博士。1966年に東京大学教養学部基礎科学科を卒業。東京大学理学系大学院修了後,1969年に東京大学助手となり,1979年に東京天文台助教授,1988年に国立天文台教授。1972年から74年まで米国立電波天文台の客員研究員を務めた。専門は観測天文学で,現在,電波と赤外線を使って,星と惑星系の形成について研究している。東京天文台野辺山宇宙電波観測所の建設に参加し,現在は国立天文台すばる望遠鏡計画総括責任者を務めている。著書に『宇宙史の中の人間』(岩波書店,1993年)など多数ある。