日経サイエンス  1996年2月号

嚢胞性線維症

M.J.ウェルシュ(アイオワ大学) A. E. スミス(ゲンザイム社)

米国で最もよく知られる遺伝性疾患の1つ「嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)」は,病気の原因となる変異遺伝子を2つもつ人が発病する劣性の遺伝病である。米国の白人の20人に1人がこの遺伝子を1本もつ保因者である。米国では毎年1000人の病気の子供が生まれ,約3万人の患者がいるという(日本での患者数は少なく,1952年から現在までで50人が報告されている)。

 

この病気に侵されると,ねばねばした分泌物が,肺やすい臓,小腸,肝臓などさまざまな器官の管に詰まり,機能が破壊されてしまう。とくに,気管支の症状は致命的であり,患者の多くは感染症を繰り返しながら,肺疾患ために20代までに亡くなる。

長い間,臨床面での理解が先行していたが,1980年代に入って,生化学的な研究が急速に進んだ。その結果,患者では,上皮細胞にある塩素イオンチャンネルの機能が損なわれ,他方,ナトリウムイオンも,感染内腔から再吸収されないため,粘液の濃度が異常に高まることがわかった。さらに,大多数の人の病気の原因となる変異遺伝子は,この塩素イオンチャンネルを作る遺伝子の一部が欠失したものであることも明らかになった。
原因が解明されるにつれて,病気の子供たちを救うための方法も多方面から検討されるようになった。しかし,今のところ,肺の異常を取り除くための根本的な治療法はなく,遺伝子治療をはじめとする新しい治療法に期待がかけられている。
 
 
再録:別冊日経サイエンス208「生命解読」

著者

Michael J. Welsh / Alan E. Smith

ウェルシュとスミスは何年も共同研究を行ってきた。ウェルシュは,ハワード・ヒューズ医学研究所の研究者であり,アイオワ大学の医学・生理学・生物物理学の教授である。彼は1974年にM. D. をアイオワ大学で取得し981年にアイオワ大学に帰るまでは,カリフォルニア大学サンフランシスコ校,同大学のヒューストンにあるテキサス健康科学センターで研究員として研究を行ってきた。スミスは,マサチューセッツ州フラミンガムにあるゲンザイム社の副社長である。また,英国のミルヒルにある国立医学研究所の生化学部門の部長であり,フラミンガムにあるインテグレイテッド・ジェネティック祉の副社長兼科学部門責任者である。

原題名

Cystic Fibrosis(SCIENTIFIC AMERICAN December 1995)

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