日経サイエンス  1996年1月号

フォトリソグラフィーのゆくえ

松尾義之(編集部)

 いまから9年前の1986年12月号の本誌に掲載された論文で,当時 IBM社の科学担当副社長だったチャウダリー(Praveen Chaudhari)博士は,大筋で次のようなことを述べている。

 

 「回路パターンの線幅はここ25年の間に劇的に小さくなった。 1960年に線幅は30μmが代表的なものだったが,現在(1986年)では1μmが普通である。ごく最近では0.5μmの線幅が実現してい る。これは1990年代半ばに実現すると思われる16M(メガ)ビットのメモリーを開発する上での重要な第一歩である」。
 「フォトレジストにきわめて微細なパターンを焼き付けるためには, 波長の比較的長い光は不適当である。この限界を避けて通る1つの方法は,電子ビームを用いることである。実際,この方法で線幅0.5μm のデバイスの試作品が作られたのである。…もう1つ研究中の方法は,チップに回路パターンを焼き付けるのに,波長のきわめて短いX線を用 いることで,このX線としてはシンクロトロン放射光が適している」。

 

 さて,この9年間で,この予言は当たったのだろうか。とくにフォト リソグラフィー技術に関するかぎり,予想は完全に外れた。量産工場のどこにも電子ビーム露光やX線露光など登場していない。当時の人々の 予想を覆しながら,光露光技術の解像度は,85年の1μmから,90年の0.5μm,95年の0.25μmへと進んできた。微細加工技術者の好きな 3年法則からいえば,解像限界は「3年で0.7倍」になっており,なお極限は見えないのである。このような技術の進歩は,なぜ可能になった のだろうか。