日経サイエンス  1996年1月号

お手玉の科学

P. J. ビーク(アムステルダム自由大学) A. リューベル(ブランダイス大学)

 日本では,お手玉は子供の遊びか,さもなければ大道芸・曲芸の 出し物としか見なされない。しかし,マサチューセッツ工科大学 (MIT)にお手玉(juggling)クラブを設立した著者らによるこの論文は,欧米ではお手玉が大人の趣味や娯楽だけでなく,科学 の対象としても扱われていることを真面目に紹介している。

 

 お手玉の科学的興味は,まず人間の感覚と運動の協調心理,2 番目にロボットの開発,3番目は数学的な解析である。現代の情 報理論を確立したシャノン(ClaudeE. Shannon)や人工知能研 究の大家であるパパート(Seymour A. Papert)らも,お手玉の 研究に深くかかわっていたという。

 

 人間の協調心理については,たとえば上級者がボールをあまり 見ないで,もっぱら触覚に頼ることがわかった。ロボットについ てはさまざまなタイプの試作機があるが,人間並みの器用さを持つものはまだ登場していない。数学的にはボールを投げ上げるパ ターンを数列で表現する方法が見つかり,練習の役に立っている。

 

 お手玉には,ボールの軌跡が円を描く「シャワー」,8の字を 描く「カスケード」,片方の手だけで投げ上げて受ける「ファウ ンテン」と3つの基本パターンがある。初心者は普通シャワーから入るが,上達が速いのはカスケードという。この論文を読んで, お手玉の魅力を再認識された方は,さっそく挑戦してみたらいか がだろうか。世界記録は11個だそうである。

 

 

再録:別冊日経サイエンス172「数学は楽しい Part2」

 

著者

Peter J. Beek / Arthur Lewbel

ビークは3つ玉,リューベルは8つ玉のお手玉ができる。ビークはアムステルダム自由大学の人間行動学科の科学者。腕のリズミカルな協調運動,知覚と行動の結びつき,運動の生成について興味を持っており,お手玉や振り子の振動に関して論文を数本書いている。リューベルはマサチューセッツ工科大学でPh.D.を取得し,現在はブランダイス大学の経済学の教授。1975年にMITのお手玉クラブを設立した。Juggler's World誌に"The Academic Juggler"というコラムを書いている。

原題名

The Science of Juggling(SCIENTIFIC AMERICAN November 1995)