日経サイエンス  1996年1月号

よみがえるホログラム・メモリー

D. サルティス(カリフォルニア工科大学) F. モック(ホロプレックス社)

 書籍の表紙やパンフレットなどで,立体感を持った鮮やかな 絵やマークを目にすることがよくある。この画像はホログラ ムとしてよく知られており,対象物に信号光と参照光という2種類のレーザー光を干渉させて立体画像を平面的に記録したものである。

 

 このレーザーの干渉効果をさらに拡張して,小さな結晶の 中に膨大な情報を記録するシステムがホログラム・メモリーであり,この論文で紹介する内容である。記録容量はコンパ クトディスク1000枚分にのぼり,超高速で書き込みと読み 出しができる。これほどの潜在的な利点がある記録技術はほかに見当たらない。

 

 ホログラム・メモリーのアイデアは1960年代に生まれ, 1970年代にはいくつかの試作品ができた。しかし,当時進境著しかった半導体や磁気のメモリーに先を越され,技術開発 の最前線からは忘れられた存在になった。

 

 90年代になってオプトエレクトロニクスが急成長し,高性能の光源・検出器・スクリーンが容易に入手できるようになっ て,ホログラム・メモリーが復活する目が出てきた。課題だっ た誤り訂正やアクセスの手法も進歩した。材料面では結晶以外にポリマーの利用も可能になってきた。

 

 実用的には入室管理を行う指紋の読み取り装置や,連想記憶 を利用した認識システムが有望視されている。もっとコンパクトな記録方式が欲しいユーザーにとって,このメモリーは将来 性を感じさせる要素技術であろう。

著者

Demetri Psaltis / Fai Mok

サルティスは電子工学科の教授であり,カリフォルニア工科大学のComputation and Neural Systemsのexecutiv officer である。彼の研究上の関心は主に光学と情報科学を結びつけた分野にある。サルティスは広く光コンピューターに取り組んできており,ホログラフィと適応的ニューラルネットとの関連性の確立において先駆者的仕事をした。1989年Inter national Commission for Optics賞を受賞した。彼はカーネギーメロン大学でPh. D. を取った。 モックは,1993年にサルティスと共同設立した会社ホロプレックスの代表者である。彼はサルティスの指導のもとに,2値信号処理の研究で,1989年にPh.D.を取った。彼は1988年以来,体積ホログラムによる光メモリーと情報処理の研究に集中している。彼とその妻は2人の娘たちを彼らの最も誇りとする財産であると考えている。

原題名

Holographic Memories(SCIENTIFIC AMERICAN Novemberr 1995)