生命科学の分野で予想外の新現象が見つかった。RNAどうしが邪魔し合って働きを失ってしまう「RNA干渉」だ。遺伝子発現を抑制する強力な仕組みが生物にもともと備わっていたことを知って,科学者たちは驚愕した。“ノーベル賞級”の発見といえるだろう。RNA干渉を利用して病気の原因となる遺伝子を封じることができれば,医療は一変する。ポストゲノム時代のカギを握るRNA干渉について,そのホットな研究状況をリポートする。
ゲノムを見張る驚異のメカニズム N. C. ラウ/D. P. バーテル
小さなRNAの遺伝子とその標的を探せ 多比良和誠
日本でも進む新薬開発への応用 中島林彦
分子を精密にならべて複雑で微細な構造を作り,新しい機能を発揮させる。科学者が長年追い求めてきた理想を実現する技術が急速に進展している。自然に集まって規則正しい構造を作る「自己組織化」を利用する手法だ。ナノテクを支える基盤技術としての期待も大きい。原子や分子を操るナノマシンも夢ではなくなりそうだ。
自ら組み上がる“分子の機械” 藤田誠/堀顕子
生体超分子が実現する未来の電子素子 山下一郎
物理学
ホログラフィック宇宙 J. D. ベッケンスタイン
最新の理論によると,この宇宙は1枚のホログラムに似ている。私たちを含め,全宇宙ははるか遠くの面に“描かれた”存在だ。ブラックホールの研究を通じて驚異の宇宙像が浮かび上がってきた。
神経科学
小脳の知られざる役割 J. M. バウアー/L. M. パーソンズ
運動を制御するだけだと考えられてきた小脳が見直されつつある。知覚情報の統合や認識などの過程でも活発に働いていることがわかった。その名に反して,小脳の役割は予想以上に大きい。
宇宙開発
有人宇宙飛行 中国の挑戦 J. オバーグ
ゴビ砂漠の一角で,いま中国は有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げ準備に余念がない。初めて3人の宇宙飛行士を地球周回軌道に送り込む。この挑戦で中国は米国に次ぐ第2の宇宙超大国を目指す。
進化
地球が「猿の惑星」だったころ D. R. ビガン
中新世の類人猿はいまでは想像もできないほど多彩だった。アフリカで誕生した類人猿は,新天地を求めて移動を繰り返した後,ユーラシアで進化したらしい。
世界の研究室から
趣味と実益を兼ねた音楽情報解析 荻原光徳(米ロチェスター大学計算機科学科教授)
サイエンス考古学
子どもの学習/圧縮パワー/印刷技術の革命/クレタの遺物/熱とは?/病をもたらす霧
TOPICS
低エネルギーの電子でもDNAが破壊/超対称性粒子の存在,濃厚に/少量の毒は薬にも/網膜移植成功に妙手?/細菌がマイクロマシンの動力に/動き出す次世代GPS開発/ピーナツアレルギー克服に光明/仕返しが激しくなるわけ/光速を室温で制御/太陽の素顔を拝見/太陽電池,“裏ワザ”で性能向上 ほか
瀬名秀明の時空の旅
心はどのようにして生まれるのか ナビゲーター:茂木健一郎
いまどき科学世評
知的財産戦略という「ものまね」 塩谷喜雄
パズリング・アドベンチャー
10分間の盗聴 デニス・シャシャ
素顔の科学者たち
ブッシュ政権下でNIHの舵を取る エリアス・A・ゼルフーニ
旅して発見!
ハーバード大学のガラスの植物コレクション M. ハロウェイ
WAVE
理想の放射線防護服/進化した“マルチメディア”/すべては神の思し召し
ブックレビュー
『太りゆく人類』
『無意識の脳 自己意識の脳』
<連載>森山和道の読書日記 ほか