日経サイエンス  2011年9月号

科学調査の輝き スコット南極探検隊

E. J. ラーソン(ペパーダイン大学)

 今から100年前,ノルウェーのアムンゼン隊と英国のスコット隊は南極点一番乗り競争を繰り広げた。両隊はライバルが先行していないことを祈りつつ,ブリザード吹き荒れる白い大陸を進んでいった。一番乗りの栄誉はわかりやすいし,アムンゼンはそれが唯一無二の目的だった。だがスコットは違った。一番乗りできればうれしいが,彼にはより大事な目標があった。科学への貢献だ。現在,南極は地球温暖化研究の最前線となっているが,100年前は進化論研究のホットスポットだった。当時,グロッソプテリスという古生代の植物化石がアフリカとオーストラリア,南米で一見何の関連もなしに産出することが知られ,それが創造説(生物は神が創造したとする考え)の1つの論拠とされていた。一方,進化論者は,これら3大陸はかつて南極大陸を介して陸続きになっていて,そこでグロッソプテリスが進化したとする仮説を提唱した。南極でグロッソプテリスが見つかれば進化論に軍配が上がる。スコットは南極点からの死の帰路でも地質調査を行い,ついにこの化石を発見した。

著者

Edward J. Larson

米国ペパーダイン大学の歴史・法学教授。米国で進化論教育の是非を問うたスコープス裁判を題材にしたピュリツァー賞受賞作「Summer for the Gods」をはじめ,科学史の分野に9冊の著書がある。最新刊は5月に上梓した「An Empire of Ice: Scott, Shackleton and the Heroic Age of Antarctic Science」(Yale University Press)。

原題名

Greater Glory(SCIENTIFIC AMERICAN June 2011)

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