
開発・打ち上げの費用,締めて550万円なり。東京大学の中須賀研究室は2003年,秋葉原の部品で作った10センチ角衛星「キューブサット」の打ち上げに世界に先駆けて成功し,以来,日本の超小型衛星開発を引っ張ってきた。だがその道は決して平坦ではなかった。苦心の末に衛星を開発したものの,試験設備がなくてほかの機器の試験に相乗りさせてもらったり,海外の打ち上げあっせん業者の口車に乗って痛い目を見たり。思い余って戸を叩いたロシアのロケット打ち上げ会社に暖かく迎えられ,ついに打ち上げの機会を得る。高度824kmの軌道上から衛星が送ってきた信号を,著者と学生たちが初めてとらえるくだりは圧巻だ。
中須賀研と,一緒に衛星を打ち上げた東京工業大学チームの成功で,日本の超小型衛星開発に火がついた。以来,大学が続々と衛星を打ち上げており,今年は中須賀研究室が国立天文台,京都大,信州大などと共同で開発した天文観測衛星「Nano-JASMINE」が打ち上げられる。超小型衛星のパイオニアが,先端的な科学ミッションを担うまでになった超小型衛星の歴史と未来を語る。
著者
中須賀真一(なかすか・しんいち)
東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。東京大学で博士課程修了後,1988年日本アイ・ビー・エム入社。90年に東京大学工学部に講師として戻り,2004年から現職。96年米メリーランド大学コンピュータサイエンス学科,99年米スタンフォード大学航空宇宙学科の客員研究員を併任。宇宙開発と人工知能の融合を夢見ている。
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