日経サイエンス  2011年6月号

特集:マグニチュード9.0の衝撃

回復力だけには頼れない

飛鳥井 望(東京都医学総合研究所)

 人間の心には生来の立ち直る力が備わっているが,それを過信するのも,また問題が大きい。大災害や事件・事故後の「心のケア」は,2段構えで対処するのが基本だ。

 まず,トラウマ体験があった直後に眠れなくなったり,突然気持ちがこみ上げてきて涙したり,辛い光景が繰り返し頭の中に浮かんだりするのは,正常で普通の反応だ。精神的に弱いから起きるわけではない。できるだけ休養を取り,信頼できる人に気持ちを聞いてもらって心を軽くするなどのセルフケアを促すほか,被災者の心身に負担をかけない実際的なサポート「サイコロジカル・ファーストエイド」が広く行われている。

 だが半年たっても1年たってもトラウマ反応が軽くならなかったら,トラウマ及び心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症しているのかもしれない。精神科などの専門医に相談した方がよい。薬物治療のほか,特にトラウマによって変化した考え方と行動パターンを修正していく心理療法が効果的だ。

 

再録:別冊日経サイエンス183「震災と原発」

 

著者

飛鳥井 望(あすかい・のぞむ)

東京都医学総合研究所副所長。同研究所の「心の健康プロジェクト」のプロジェクトリーダーも務める。精神科医。日本トラウマティック・ストレス学会の初代会長で,現在は理事。

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