日経サイエンス  2011年5月号

身体を超えてつながる脳

M. A. L. ニコレリス(デューク大学)

 私たちは携帯端末やパソコンを使い,ネットを介して他人と結ばれている。しかし,将来はそうした装置を介さずに,つまり各人の脳どうしが直接,ネットで結ばれる「ブレイン・ネットワーク」が誕生し,脳内で生まれる知覚や感情を何十億人もが共有できる世界になる──脳と機械をつなぐ「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」の第一人者である著者が,人類の驚きの未来図を語る。

 

 BMIの将来像としてよく言われるのは,脳波で直接制御できるロボットスーツや,私たちの脳とつながって,宇宙の果てや細胞内を探索してくれるアバターなど,SFさながらの技術。著者はもちろんそれらが実現し,障害者の活動範囲を広げ,科学研究の新たな手段になると予測する。そして,その先にあるのがブレイン・ネットの世界だ。そのようにして脳が身体から完全に解放されたら,個人と個人の境界線はぼやけ,私たちは巨大な集合意識の一部になるだろう。自己と世界のかかわり方が再定義され,人類はその歴史上,新たな時代を迎えることになるのかもしれない。

 
 
再録:別冊日経サイエンス207「心を探る 記憶と知覚の脳科学」

著者

Miguel A. L. Nicolelis

神経人工装具研究の草分け。デューク大学のアン・W・ディーン記念教授で,デューク大学の神経工学センターの創設者。

原題名

Mind Out of Body(SCIENTIFIC AMERICAN February 2011)

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