日経サイエンス  2011年4月号

水星探査機 到着!/日欧探査機も水星へ

S. L. マーキー R. J. バーバック B. J. アンダーソン(いずれもジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所) 中島林彦(編集部)

 夜空に輝く金星や火星,木星はなじみ深い惑星だが,太陽に最も近い水星は朝夕のごく限られた時間帯しか姿を見せず,肉眼で見た人はほとんどいないだろう。なじみの薄さは水星がどんな惑星なのかわかっていないことにもよる。そもそもつい数年前まで水星表面の約半分がどのようになっているのかすら知られていなかった。それを明らかにしたのが米探査機メッセンジャー。メッセンジャーは2008年から09年にかけて水星に3回最接近して観測を行い,この3月18日にはエンジンを逆噴射させて,世界で初めて水星周回軌道に入る。水星表面はいったいどんな組成になっているのか? 小さな惑星は全球規模の磁場を持つのは難しいはずなのに,なぜ水星にはそれがあるのか? どんなプロセスが希薄な大気を支配しているのか? そうした問いに答えが出るだろう。

 

 

 米探査機メッセンジャーは2011年3月18日,水星の周回軌道に入り,本格的な観測を始める。数多くの新発見が期待されているが,それによって新たな謎も生み出されるとみられる。そうした謎を解く役割を担うのが,メッセンジャーに続いて水星に向かう日欧共同の探査機「ベピ・コロンボ」だ。

 

 現在,試作モデルを用いた耐熱性などの試験が進んでおり,今年から実機での試験も始まる。打ち上げは2014年で,2020年に水星周回軌道に入り,1年間詳しく観測する。

 

 探査機の名称はイタリアの天文学者コロンボ(Giuseppe Colombo)にちなむ(ベピはコロンボ博士のファーストネームの愛称)。天体力学の専門家で,水星が3回自転する間にきっかり2回公転することを数学的に明らかにした。マリナー10号が金星をスイングバイして水星に接近する軌道を提案したことでも知られる。

 

 ベピ・コロンボは2つの水星周回探査機からなる。1つは水星表面探査機MPO(Mercury Planetary Orbiter)。カメラやレーザー高度計,ガンマ線やX線,紫外線,赤外線の観測装置などを使って地形や物質組成などを上空から調べる。機体の開発と運用は欧州宇宙機関(ESA)が担い,観測装置については日本の研究グループも加わる。

 

 もう1つは水星磁気圏探査機MMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)。水星を取り巻く希薄な中性大気や電離ガス(プラズマ)を構成する各種粒子の密度や速度,温度,エネルギー分布,電場,磁場,プラズマ波動,大気発光などを調べ,水星の磁気圏,大気,水星近くの惑星間空間の状況を探る。機体の開発と運用は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が担当し,観測装置については欧州グループも加わる。

著者

Scott L. Murchie / Ronald J. Vervack, Jr. / Brian J. Anderson

 3人はいずれもジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所(APL)の研究者。マーキーの専門は地質学。彼が育った米北東部ニューイングランドの家の周りには非常にたくさんの岩があり,自然に岩石に興味を抱くようになった。惑星表面からの反射光スペクトルを分析して惑星地殻の構造や歴史を探っている。

原題名

Journey to the Innermost Planet(SCIENTIFIC AMERICAN March 2011)

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