日経サイエンス  2011年3月号

幻覚剤を医療に

R. R. グリフィス(ジョンズ・ホプキンズ大学) C. S. グロブ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)

 マジックマッシュルームに含まれるシロシビンをはじめとする幻覚剤は脳に働きかける。これを摂取すると,通常は厳しく長い修行を経て経験するような神秘的な体験を味わえる場合がある。この作用について,おもに1960年代に盛んに研究が行われ,深刻なうつ病などへの治療や,末期がん患者が感じる強い不安や恐怖を和らげるのに使えそうだという結果が得られていた。

 しかし,快楽のために野放図に乱用する者が現れ,規制薬物に指定されると同時にすっかり負のイメージが定着してしまい,事実上,人での研究は途絶えてしまった。

 しかし,最近になって,臨床研究が米国で再開された。幻覚剤の服用によって一時的に強い恐怖を感じるなどの事例もあったが,被験者がリラックスできる場所づくりなど,適切に用いれば,非常に有望そうな結果が出ている。

著者

Roland R. Grilfiths / Charles S. Grob

グリフィスはジョンズ・ホプキンズ大学医学部の精神医学および神経科学科教授で,向精神薬が行動や主観に及ぼす影響を調べている。ジョンズ・ホプキンズ大学のシロシビン研究イニシアチブの研究主任でもある。グロブはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部の小児科精神医学科の教授で,ハーバーUCLA医療センターの青少年精神医学部門長も兼任。がん患者の不安などにシロシビンが有効かどうかといった,いくつかの幻覚剤の治療効果を研究している。

原題名

Hallucinogens as Medicine(SCIENTIFIC AMERICAN December 2010)

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