日経サイエンス  2011年3月号

ウェブを殺すな

T. バーナーズ=リー(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)

 1990年に筆者の手によって生み出されたワールド・ワイド・ウェブは,20年たった今日,すっかり私たちの日常に根を下ろした。ちょうど電気のように,いつでもそこにあって,必要な時にはすぐにつながるのが当然だと思われている。

 だが,そのウェブは今,危機にさらされている。アップルやソーシャルネットワークは情報をほかのサイトから隔絶して囲い込み,無線ネット・プロバイダーは接続速度を操作して傘下のサイトだけつながりやすくしたいと考え,政府は人々のネット利用を監視し,ネット接続の権利を人々から法的手続なしに奪う制度を次々に設けている。

 私たちウェブの利用者が,こうした状況を座して見ていたら,いつでも,誰が作ったどんなサイトにも接続することができ,情報を共有できるというウェブの最大の特徴は失われてしまう。

 ウェブがその機能を失わず,今後も進化し続けていくためには,ウェブをウェブたらしめている基本原則を堅持していかねばならない。それは,何でも載せられ,どこにでもリンクを張れる「汎用性」,ウェブサービス開発のための基本技術を誰でも無料で使える「オープン化」,ウェブとネットが独立して進化することを保証する「技術の分離」,サイトの内容や目的によって接続速度が左右されない「中立性」,そして政府や企業が利用者の閲覧内容に介入するのを防ぐ「監視・制限からの自由」である。

 ウェブは今や,生活,仕事,そして社会を支える公共の財産だ。状況を注視し,必要な時は抗議して,ウェブの基本原則を維持していかねばならない。そうすればウェブは自律的な発展を続け,これからも,今はまだ想像もつかないような新たな機能やサービス技術が生まれ続けるだろう。

 

 

再録:別冊日経サイエンス212「サイバーセキュリティー」

著者

Tim Berners-Lee

ワールド・ワイド・ウェブの開発者。現在はマサチューセッツ工科大学に本拠を置くワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムのディレクター。同大工学科の教授かつ英国サウサンプトン大学のコンピューター科学科教授。

原題名

Long Live the Web(SCIENTIFIC AMERICAN December 2010)

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