日経サイエンス  2011年3月号

血の通った化石

M. H. シュバイツアー(ノースカロライナ州立大学)

 古代の化石は硬い鉱物の塊で,かつてその動物を作っていた細胞やタンパク質などは,長い年月のあいだに分解してなくなっていると言われていた。ところがこの定説を覆して,数千万年前の恐竜化石から血管や爪の一部などが見つかった。

 古生物の研究では300年以上ものあいだ,化石化した骨からはその大きさや形以上の情報はわからないと決めつけられていた。一般に,化石化に適した環境で動物が死ぬと,周囲から安定な鉱物が入り込んで細胞や組織,色素やタンパク質など,すべての有機物と置換し,完全に無機物からなる骨が残る。また,有機分子の寿命はたかだか数万年と言われていた。だが,条件によっては,有機物が何千万年ものあいだ保存されることがあるようだ。

 著者は,ティラノサウルスなどの古代の恐竜化石から,爪や羽毛に含まれるケラチンタンパク質や,皮膚や腱,骨などをつくるコラーゲンを次々と発見してきた。さらには,恐竜のコラーゲンのアミノ酸配列が,現生の鳥類の配列と最も似ていることを明らかにした。鳥類は現生動物の中で1番恐竜に近いと言われている。

 タンパク質のアミノ酸配列がわかれば,DNA配列と同様に,さまざまな情報が得られる。古代の有機物は,絶滅した生物種の系統関係や進化の謎を解く手がかりとなりそうだ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス220 「よみがえる恐竜 最新研究で明かす姿」

 

著者

Mary H. Schweitzer

高校の理科教師になるために大学で勉強中に,好奇心から古生物学の授業を受けたとき,子どもの頃の恐竜への興味に再び火がつき,その後1995年にモンタナ州立大学で生物学の博士号を取得した。現在,ノースカロライナ州立大学海洋・地球・大気科学科の准教授とノースカロライナ自然科学博物館の研究員を兼任している。

原題名

Blood from Stone(SCIENTIFIC AMERICAN December 2010)

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