日経サイエンス  2011年1月号

人工の葉で水素燃料

A. レガラド(科学技術リポーター)

 地球に深刻な被害をもたらす温暖化を阻止するには,2050年までに二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーを10兆ワット以上作り出せるようになる必要があるとされる。これは米国の平均エネルギー需要3兆2000億ワットの3倍だ。

 

 世界中のあらゆる湖や河川にダムを建設しても,その水力発電で得られる電力は5兆ワットにしかならないとルイスは指摘する。原子力なら何とかできるかもしれないが,それには今後50年間,新しい原子炉を2日に1基のペースで建設しなければならないだろう。

 

 人類が救われるには,ソーラー燃料技術の飛躍的な進歩が必要になる。手本となるのは植物だ。植物はクリーンなエネルギー生産工場。太陽光を利用して,空気と水という原料から糖という形の化学燃料を,有害な排出物なしに生産する。この仕組みを手本に,太陽光を利用して水から水素燃料を生み出す「人工の葉」の開発が進んでいる。人工の葉は安くて薄いシートのようなもの。今のところ高価な触媒が必要で,これを自然の葉のように,ありふれた材料だけで実現するのが大きな技術的挑戦だ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス197「激変する気候」

著者

Antonio Regalado

科学技術リポーターで,Science誌のラテンアメリカ通信員。ブラジルのサンパウロに在住し,再生可能なエネルギー源などエネルギー関連の記事を執筆している。

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