日経サイエンス  2010年11月号

快走! 宇宙ヨット「イカロス」

中島林彦(編集部) 協力:森 治(宇宙航空研究開発機構)

 星々がきらめく暗黒の宇宙空間。遠くにピカっと小さな輝きが見えたかと思うと,銀色の巨大な凧のような物体が間近に迫り,あっという間に通り過ぎていった……。

 

 もし,宇宙ヨット「イカロス」を眺めることができたら,そんな感じになるかもしれない。太陽光は非常にわずかだが物を押す力を持っているので,ヨットの帆のように大きな反射膜を宇宙空間に浮かべれば,膜は太陽光の力を受けて動き始める。その原理を利用したのが宇宙ヨット。構想から約100年,多くの困難を乗り越え,宇宙で初めて“帆走”に成功したのが「イカロス」だ。正方形の帆の一辺は約14mなのに対し,帆の厚さは髪の毛の太さの1/10しかない。真横から見ればあまりに薄くて目に入らないだろう。

 

 地球を発ったのが2010年5月21日,6月9日には最大の難関だった宇宙での帆の展開に成功,宇宙航空研究開発機構(JAXA)相模原キャンパスの管制室は拍手に包まれた。同年12月には金星上空に到達する。

 

 

再録:別冊175「宇宙大航海 日本の天文学と惑星探査の今」

協力:森 治(もり・おさむ)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所宇宙航行システム研究系助教。月・惑星探査プログラムグループに所属し「イカロス」のマネージャーを務める。「はやぶさ」の運用にも携わった。

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