
ボトックスは,微量を患部に注入して顔のシワをとったり,けいれんを抑えることを目的として開発された美容・医薬品で,若々しくいたいと願う女性を中心にその人気が高まっている。だが,ボトックスの有効成分は「ボツリヌス神経毒素」と呼ばれる致命的な毒物だ。この毒物はたった1gで,経口摂取では1万4284人,吸入では125万人,注射では830万人を殺すことができる。ボツリヌス毒素は致死率が最も高い「潜在的生物兵器剤」に分類され,天然痘ウイルスや炭疽菌,ペスト菌と並んで「生物剤」に指定されているのだ。
ボツリヌス毒素を含む製品に対する需要の高まりと,匿名でも売買できるインターネット取引の存在が,その違法製造・違法取引の拡大に拍車をかけている。この状況は安全保障上の見地からすると大きな問題だ。違法ボツリヌス毒素製剤を販売することと,破壊活動を目的とする集団にボツリヌス毒素を販売することに大差はなく,恐ろしい生物兵器が悪の手にわたる危険がある。また,違法製造元が自らテロリストになる恐れもある。
著者こうした脅威を抑える安価でリスクのない方法があると主張する。例えば,警察と科学者が協力して,違法市場に出回っている密造品を購入・分析して各製品に含まれる成分の特徴を詳しく調べれば,違法製造元の数やその所在地,原料の入手先などがわかり,違法製造元の摘発につながる。差し迫った生物兵器拡散の脅威を考えると,こうした方策はできるだけ早期に実行されなければならない。
著者
Ken Coleman / Raymond A. Zilinskas
2人はカリフォルニア州のモントレー国際大学院ジェームズ・マーティン不拡散研究センターで共同研究を行っている。元微生物学者のコールマンは同大学院の上席フェローであり,医療技術企業を経営している。同じく元微生物学者のジリンスカスは同センターの生物化学兵器不拡散プログラムを指揮している。長年にわたって米国政府のコンサルタントを務めており,1994年にはイラクで国連検査官として活動した。
原題名
Fake Botox, Real Threat(SCIENTIFIC AMERICAN June 2010)
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