日経サイエンス  2010年10月号

カリフォルニア発 汚水が生んだクリーンエネルギー

J. B. リトル(フリーランス・ライター)

 都市汚水を処理してから地下の地熱系に注入すると,発電用の蒸気が得られると同時に廃水の廃棄問題が解消し,一挙両得だ。米国カリフォルニア州では,サンタローザ市とエネルギー企業のカルパイン社が協力し,廃水を活用して地熱発電を行う世界最大のプロジェクトを推進している。

 

 同市はロシアン川へ廃水を流さなくてすむようになったため,廃棄に伴う制裁金の支払いがなくなったほか,廃水貯蔵施設の新設に求められる4億ドルも支出不要となった。一方のカルパインは,地熱発電に使いすぎて蒸気生産量が低下したガイザーズ地域の地下に水を供給して〔涵養(かんよう)という〕,地熱地帯を再生できた。

 

 この「サンタローザ・ガイザーズ涵養プロジェクト」では,1日に約4万5000m3の処理ずみ汚水を街から65km離れた山頂までパイプラインで運び,地下2500mの深さにある帯水層に注入している。水はここで高温岩体に触れて沸騰するので,その蒸気を地上に導いて発電用タービンを回す。すぐ隣のレイク郡でも同様のプロジェクトが行われ,1日に約3万m3の廃水が再利用されている。両者の合計で20万キロワットを発電しており,これは中規模の発電所に匹敵する。温室効果ガスをはじめとする大気汚染物質の放出はない。電力の一部は,110km南のサンフランシスコにまで送られている。

 

 ただ,地熱発電所の隣接地域では小規模な地震が誘発される場合がある。慎重に考慮すべき問題だ。オバマ政権は地熱をクリーンなエネルギー源として強く推進している。米エネルギー省(DOE)の試算によると,米国は2050年までに電力需要の10%を地熱でまかなえる可能性があある。これを現実とするには,サンタローザから得られる教訓を適切に生かすことが大切だ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス189 「都市の力 古代から未来へ」

著者

Jane Braxton Little

フリーランスのライター兼写真家で,カリフォルニア州プラマス郡在住。編集者としても関与しているAudubon誌など,さまざまな雑誌に記事を書いている。

原題名

Clean Energy from Filthy Water(SCIENTIFIC AMERICAN July 2010)

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