
日産自動車は量産モデルとしては世界初の電気自動車「リーフ」を近く発売すると昨年に発表した後,全米24都市で「ゼロエミッションツアー」を展開した。リーフはバッテリーパックを車庫のコンセントにつないで充電し,そのエネルギーで電気モーターを回す。エンジンやガソリンタンク,排気パイプはない。路上では完全なゼロエミッション・マシンだ。しかし,日中のドライブで電池がエネルギーを失うため,夜間の車庫でバッテリーパックに近くの発電所から新たな電子を補充しなければならない。この過程はゼロエミッションではない。
リーフは電気自動車の実用化レースで真っ先にスタートを切るだろうが,これを追う一群がすぐ後ろにいる。ゼネラル・モーターズ(GM)が導入する「シボレー・ボルト」は電池を充電状態に保つ小さな内燃エンジンつきの電気自動車だ。フォードは2011年に「フォーカス」の電気自動車モデルを出し,その後はトヨタ自動車,ボルボ,アウディ,ヒュンダイが続く。
これらの車が環境に与える本当の影響を計算するには,自動車にエネルギーを供給する発電所からの放出を含める必要がある。米エネルギー省(DOE)の研究者がそうした解析を行ったところ,結果は場所によってかなり異なることがわかった。
電気自動車向けの電力は原子力と再生可能エネルギーのほか,主に石炭火力と天然ガス火力で発電することになると研究チームは結論づけた。天然ガス火力発電が主体の地域に住んでいる場合,電気自動車は二酸化炭素の排出削減をもたらすだろう。通常のハイブリッド車に比べて40%も排出が減る場合もある。しかし,天然ガスよりもはるかに“汚い”石炭火力発電にほとんどを頼っている地域では,大気への二酸化炭素放出量は電気自動車によってむしろ増えるだろう。地域別の状況を図に示す。
日産のゼロエミッションツアーはこの春に終了したが,「ゼロ」が本当に意味するものが何なのかをめぐる議論が,いままさに進行中だ。
著者
Gareth Dyke
アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの古生物学者。生きている鳥よりも,干からびたペシャンコの鳥化石を好む。英国の大学の学部生だったころに,動物の飛行に興味を抱いた。鳥とその飛行の進化を研究,世界中で化石を発掘・調査してきた。博物館を訪ねたり砂漠で発掘調査したりと忙しいが,そうした旅に出ていないときには,ヨーロッパの19世紀の歴史を学ぶのを楽しんでいる。オーストリア=ハンガリー帝国のスパイでもあったトランシルバニア人恐竜化石コレクターに関する本を執筆中。
原題名
The Dirty Truth About Plug-in Hybrids(SCIENTIFIC AMERICAN July 2010)