日経サイエンス  2010年9月号

温暖化の緊急対策 空中のCO₂を吸収

K. S. ラックナー(コロンビア大学)

二酸化炭素(CO2)の排出削減が叫ばれて久しいが,大気中のCO2は依然として増え続けている。新エネルギーの研究開発が進んではいるものの,化石燃料に頼らずにすむ時代がすぐに到来するとは考えにくい。それどころか,この先,さらに多くの石油や石炭,天然ガスが燃やされると見積もられている。こうした状況にもかかわらず,大気中のCO2濃度を現在の389ppmから増やさないためにはどうすればよいだろうか? 1つの可能性がある。「大気からCO2を回収する」方法だ。

 

著者のグループをはじめ,複数のグループが,大気からCO2を回収する装置を開発している。CO2回収装置のデザインはグループごとに異なるものの,その基本的な仕組みはどれも同じだ。装置に取り込まれた空気が内部の吸着剤に触れると,CO2だけが化学反応を起こして吸着し,窒素や酸素はそのまま通り抜ける。

 

著者らが開発中の装置を1000万台稼働させれば,1年間で36億トンのCO2を回収でき,大気中のCO2濃度を0.5ppm減らせるという。吸着剤の改良が進めば,現在のCO2濃度の上昇スピードを上回る速さで回収することもできるとのことだ。つまり,大気中のCO2を減らすことさえ可能になるのだ。

 

 

再録:別冊日経サイエンス197「激変する気候」

著者

Klaus S. Lackner

コロンビア大学の地球物理学教授。同大学の地球環境工学科長を務め,地球研究所のメンバー。グローバル・リサーチ・テクノロジーズの共同設立者の1人でもある。同社は大気からのCO2回収技術の周知を目的に,カジュアルウェア通販会社ランズエンドの創設者で故人のカマー(Gary Comer)が設立した。

原題名

Washing Carbon out of the Air(SCIENTIFIC AMERICAN June 2010)

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