日経サイエンス  2010年8月号

対談

形の容貌(かたち)を解剖する

小島定吉(東京工業大学) 茂木健一郎(ソニーコンピュータサイエンス研究所)

 今年3月,日本が誇るブランド,イッセイ ミヤケがパリコレクションで披露した服のテーマは,「ポアンカレ・オデッセイ」だった。同ブランドのクリエイティブディレクター,藤原大さんが,ポアンカレ予想の証明に多大な貢献をした米国の数学者,サーストン(William P. Thurston)博士に直接に会いに行き,着想を得たという。

 

 藤原さんにポアンカレ予想と,その基本にあるトポロジーを手ほどきしたのが,数学者で東京工業大学教授の小島定吉さんだ。今号の対談ではその小島教授に,トポロジーの魅力について語って頂いた。

 

 長年数学者を悩ませ続けてきたポアンカレ予想とは,そもそもどんなものなのか。サーストンがもたらした転換点とは何か。そしてロシアの数学者ペレルマン(Grigori Perelman)博士はなぜ誰もできなかった証明をやってのけたのか──。そこには同業者だからこそわかる,優れた着眼と不屈の勇気があったという。

 

 日ごろ漠然と眺めている「ものの形」も,数学の目で突き詰めれば,新たな何かが見えてくる。5角形の形はどれだけあるか。形が「似ている」と「似ていない」との違いはどこにあるのか。頭に浮かぶモヤモヤとした疑問を具体化し,論理が通った形に整理していく数学の醍醐味を,小島教授自身の研究を通して紹介する。

 

「茂木健一郎の科学の興奮」にも収載

ゲスト:小島定吉(こじま・さだよし)
1952年,大阪府生まれ。78年東京大学大学院修士課程修了,東京都立大学理学部助手。81年米コロンビア大学大学院博士課程修了,Ph.D.取得。都立大助教授,東京工業大学理学部助教授を経て94年から現職。専門は双曲幾何学と低次元多様体。2000年日本数学会幾何学賞受賞。著書に『3次元の幾何学』(朝倉書店)などがある。

ホスト:茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年,東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了,理学博士。理化学研究所などを経て現職。慶應大学研究特別教授。専門は脳科学,認知科学。「クオリア」をキーワードに脳と心の関係を研究している。著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社),『脳と仮想』(新潮社)ほか多数。

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モジュライ幾何化予想単連結3次元球面