
土用の丑の日,夏バテ防止にウナギを食べるのは日本の伝統的な食文化だが,そもそもなぜウナギは他の魚と比べても非常に脂がのっていて栄養満点でおいしいのだろう? また今では養殖ものが年中食べられるようになったが,養殖といっても捕獲した天然の稚魚を育てたもので,稚魚の確保に四苦八苦している。どうして他の魚のように卵から育てることができないのだろう?
ウナギは川や沼で捕れるので淡水魚だと思っている人がいるかもしれないが,それは誤りだ。ウナギは海で生まれ,仔魚から稚魚となった後に川を遡り,そこで大きく育って,産卵のために海へ戻る。しかし,海のどのあたりで産卵し,どのように稚魚まで育つのか皆目わからず,そうしたこともあって卵からの養殖も難しかった。
近年,長年の努力が実って産卵場が突き止められ,生活史もわかってきた。ウナギはグアム島西方にある海山周辺海域の深海で生まれ,3000kmも海流に乗って旅して日本にやって来る。そして大きく育って海に戻るが,川を出てから産卵場に行くまでの間,親ウナギは何もエサを食べない。ウナギが非常に脂がのっているのは数千kmを旅するためのエネルギーを蓄えているからだ。養殖研究にも大きな進展があった。人の手で育てられた親ウナギから生まれた世界で初めての2代目が誕生,研究室レベルではあるが,卵から育てる完全養殖が実現したのだ。熱帯びるウナギ研究の最前線を報告する。
協力:塚本勝巳(つかもと・かつみ)/田中秀樹(たなか・ひでき) 塚本氏は東京大学大気海洋研究所教授。ウナギの生活史の解明に長年取り組み,1991年,産卵場が西マリアナ海嶺南部の海山周辺海域であることを突き止めた。田中氏は水産総合研究センター養殖研究所生産技術部繁殖研究グループ長。90年代からウナギの養殖研究に取り組む。2010年春,ウナギの完全養殖に成功した。
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