日経サイエンス  2010年6月号

森で実験 気候変動の影響

S. D. ブルシュレーガー(米国立オークリッジ研究所) M. ストラール(コールド・スプリング・ハーバー研究所)

 今日,科学者は森林破壊や土地利用,化石燃料の燃焼によって地球が温暖化していることを認識している。しかし,気候変化が森林や草原の生態系をどのように変え,それに伴って生態系が人間社会にもたらす恩恵にどのような影響が及ぶかについては,よくわかっていない。

 

 マスメディアが伝える気候変化に関するニュースの多くは,実験ではなく観察に基づいている。科学者は北極海の氷や氷河の状態,木々が葉をつける時期といった生物季節現象をモニターし,通常の予測を超える変化が起こったときに人々に伝える。

 

 こうした情報を長期にわたって記録することは重要だ。しかし,気候変化の影響を研究する生物学者は,気候の変化が生物圏をゆっくりとどう変えていくのかを観察するのではなく,(しばしば大規模な)操作実験を実施して,生態系が降水量の変化や二酸化炭素濃度の上昇,気温の上昇に対してどのように応答するかを調べている。実験データは今後10年,50年,100年の間に気候変化が生態系に影響を及ぼすかどうか,及ぼすとしたらどの程度か,また,生態系の変化がどのようにフィードバックしてさらなる気候変化をもたらすかを判定する際のカギとなる。気候変化に関する議論はしばしば感情的になることがあるが,これらの実験結果は事実と空想を区別する助けとなるだろう。

著者

Stan D. Wullschleger / Maya Strahl

ブルシュレーガーはテネシー州にある米国立オークリッジ研究所植物システム生物学グループのリーダー。自然林や人工林,安定した植生を形成している地域におけるCO2濃度の上昇や温暖化,干ばつの影響を調べる実験を指揮している。最近,北極圏のツンドラと北方林における加温技術を設計し,テストしている。ストラールはニューヨーク州のコールド・スプリング・ハーバー研究所の植物科学者で,以前オークリッジ研究所での高等教育研究研修に参加していた。

原題名

Climate Change:A Controlled Experiment(SCIENTIFIC AMERICAN March 2010)

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